中央省庁及び都道府県の機関や関連団体などの事務従事者を対象に、執務上の参考に供するための各種情報を正確・確実・迅速にお届けしています。
（国研）森林研究・整備機構森林総合研究所は、スギ根系が有する山腹の表層崩壊防止機能の経年変動を評価する手法を開発した。
森林が発揮する崩壊防止機能については、従来、根株自体を横方向に引き倒す際に計測された強度に基づいて評価されてきたが、そこで計測された強度は、根株が引き倒しに抵抗する力であり、表層崩壊を防止する機能をどの程度表現しているのかが不明だった。
今回の研究では、想定される表層崩壊のすべり面におけるスギ根を対象に、現地計測や数値計算を組み合わせて崩壊に対する抵抗力を分析する手法を提案し、すべり面において根系が発揮する崩壊防止機能の経年変動を評価した。
皆伐後に腐朽が進行することに伴う根の補強機能低下、再造林による新規植栽木の成長に伴う根の補強機能増大の双方を合わせて分析した結果、スギ根系が発揮する崩壊防止機能は、皆伐から１０年は低減することが分かった。さらに、一方で防災機能を早期に回復させるためには、皆伐直後の再造林が必要であることが明らかになった。
今回の研究で得られた成果は、スギ人工林の皆伐後に懸念される斜面災害を検討するにあたり、速やかに植栽することで崩壊防止機能が早期に大幅に回復することを示しており、国土強靭化への貢献が期待されている。
〔森林が有する崩壊防止機能の最大限の発揮が重要〕
毎年のように豪雨に襲われ各地で山腹の表層崩壊が多発しているわが国では、国土の３分の２を占める森林が有する崩壊防止機能を最大限発揮させることが不可欠である。そのためには、その機能の動態の詳細を明らかにして、それに応じた適切な管理を実行することが求められる。
しかし、森林の防災機能として従来の実験研究で計測された物理値は、根株をワイヤで横方向に引っ張って引き倒す際に発揮される抵抗力であり、表層で根系が発揮する崩壊防止機能との関係が不明という問題があった。
森林が有する崩壊防止機能の評価を行うためには、想定される表層崩壊のすべり面において根系の崩壊に対する抵抗力を算出することが重要。そのためには、すべり面における根の太さ、本数、各々の根が発揮する抵抗力を求める必要があり、現地計測と数値計算を組み合わせて定量的に分析する手法の開発が求められていた。
樹木は、伐採されれば根株の腐朽が進む一方、植栽された後は成長して大きくなるなど、根系が発揮する表層崩壊防止機能も時間の経過とともに変動する。この経年変動を明らかにするためには、伐採からの経過年数の異なる根株が有する根、植栽からの経過年数の異なる立木が有する根を対象にして評価手法を開発し、分析を行うことが不可欠だった。
〔スギ根系が発揮する崩壊防止機能の経年変動特性を明らかに〕
今回の研究では、わが国に最も多く植栽されているスギを対象に、表層崩壊防止機能の調査を行った。各々の根が発揮する抵抗力は、スギ根株の周囲にトレンチ（断面）を切り、断面に出た根を引き抜く際に発揮された荷重から求めた。この調査は生木の根に加えて、皆伐からの経過年数の異なる根株を対象に行い、腐朽に伴う抵抗力の低下の実態を調べた。想定されるすべり面における根の本数と太さは、既往の根系分布モデルを用いて数値計算を行って算出。数値計算で求めたすべり面における根の本数、太さと、現地計測した抵抗力の結果を組み合わせて分析することで、表層崩壊防止機能の経年変動を評価する手法を開発した。
次に、この手法を用いて、５０年生のスギを皆伐しその後速やかに新規植栽を行った場合を想定し、５０年後までに発揮される崩壊防止力の経年変動のシミュレートを実施。その結果、５０年後までを５年ごとに分割して、各々の時点における崩壊防止力を導出して分析したところ、「皆伐／再造林から１０年で大幅に低下する」、「その後の回復速度が大きい」という結果が得られ、スギ根系が発揮する崩壊防止機能の経年変動特性が明らかになった。
〔ヒノキや広葉樹などでも評価技術の開発に期待〕
スギ根系が発揮する崩壊防止機能の経年変動について得られた成果は、この機能を最大限に発揮させることを目的に、効果的かつ経済的な森林管理計画を策定し、適切な森林施業を実施する上で広範に活用することができる。今回の研究では、スギを対象に評価手法が開発されたが、ヒノキや広葉樹などについても同様の評価技術の開発を進めることが求められている。
Copyright 株式会社官庁通信社 All Rights Reserved.
