金沢工業大学は鹿島建設㈱との間で、セメント系3Dプリンティングに関する共同研究を開始することに合意した。今後は、金沢工大キャンパス内に設置した「KIT×KAJIMA 3D Printing Lab」を拠点とし、両者の知見を活かしながら、3Dプリンティングによる環境配慮型コンクリートを適用した構造物の具現化に向けて研究を進める。
ここ数年、3Dプリンティングが飛躍的に発展している。建設分野では、主に海外で研究開発が進められ、セメント系3Dプリンティングにより住宅や歩道橋などが建設されており、国内でも、複数の企業が研究開発に着手している。セメント系3Dプリンティングはロボットアームの先端からセメント材料を吐出して積層しながら部材を製作するもので、3Dデータを直接3Dプリンターに読み込ませることで、図面作成から部材製作までの一連の作業をデジタルで完結できるため、型枠組立、コンクリートの流し込みといった人手がかかる従来工法に比べて、省人化・省力化が図れる。このため、建設業界の喫緊の課題である技能労働者不足、生産性向上の解決策として、その効果が期待されている。
一方、地球温暖化への対応が世界中で求められているなか、その一因とされるCO2排出量の削減は建設分野でも急務となっている。特に主要資材であるコンクリートは、主な構成材料のセメントの製造過程で大量のCO2を排出するため、各機関でCO2の削減や固定化が可能な環境配慮型コンクリートの開発が進められている。
このように、建設分野では、国土交通省が推奨している建設業の省人化や生産性向上のための取組である「ⅰ-Construction」での作業の機械化・自動化に加えて、環境負荷低減という新たな側面からの技術開発が求められている。
CO2を吸収・固定化し、排出量をゼロ以下に
3Dプリンティングに関する検討項目は、最適な材料の選定やロボットの制御をはじめ、補強材の設置を含めた構造計算や、解析によるシミュレーションなど、多岐にわたる。対して、土木・建築・機械だけでなく、電気・情報・景観計画といった広い分野で多くの知見を持つ金沢工大と、土木・建築の設計・施工技術や、ロボットなどを活用した施工の機械化・自動化に関する知見を持つ鹿島は、両者の知見や技術を活かしてセメント系3Dプリンティングに関する共同研究を行うこととした。
さらに、3Dプリンティングに使用する材料として、鹿島らが開発した環境配慮型コンクリートCO2‐SUICOMを適用する。CO2‐SUICOMは、コンクリートの製造過程において大量のCO2を強制的に吸収・固定化させることによりCO2排出量をゼロ以下にできる世界初の技術。
これらの研究により、3Dプリンティングによる生産性向上に加えて、CO2‐SUICOMによりカーボンネガティブを実現する画期的な施工技術の社会実装を目指す。1立方メートルのCO2‐SUICOM製品を3Dプリンティングで造形した場合、マイナス18㎏の脱炭素に貢献できる。
金沢工大と鹿島は、3Dプリンティングを建設分野に普及展開するためには、3Dプリンティングによる製作物を公共の場に設置し広く認知してもらう必要があると考えており、地方自治体とも連携した産官学での研究開発を進める。2023年度には、3Dプリンティングによる製作物を、北陸地方の自治体の公共の場に設置することを目標としている。