横浜市立大学附属病院化学療法センター堀田信之センター長らの研究グループは、全国のがん患者の7割をカバーする院内がん登録データのデータ解析を行った。その結果、日本人で患者数の多い8がん種(食道がん・胃がん・大腸がん・直腸がん・非小細胞肺がん・乳がん・前立腺がん・子宮頚がん)について、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックにより診断患者数・切除患者数が大幅に減少していることを確認した。この結果は、新型コロナ禍の影響で、がん診断が適切に実施できていない可能性を示唆している。
この研究成果は、英文医学誌「European Journal of Cancer」に2月10日付けでオンライン掲載された。
2020年に新型コロナ禍が始まり、がんの診断数が減少しているとの報告が、新型コロナ禍の影響の大きい欧米から複数報告されている。しかし、新型コロナウイルス感染症の患者数が相対的に少ない国内での主要ながん種の診断数の変動に関する解析は十分に報告されていなかった。
また、早期がんの切除は根治を目指せる重要な治療法となるが、新型コロナ禍における切除数の減少についての報告は世界的に行われていなかった。
研究では、全国のがん患者の7割をカバーする院内がん登録の全国集計データの提供を受け解析を行った。診断数の多い10種のがんを解析対象とした結果、2016~2019年度の患者数から推定される2020年度の予想値と比べ、食道がん(9.2%)、胃がん(12.0%)、結腸がん(8.3%)、直腸がん(8.6%)、非小細胞肺がん(7.7%)、乳がん(8.1%)、前立腺がん(11.5%)、子宮頸がん(8.4%)の8がん種で診断患者数の大幅な減少を確認できた。
また、進行がんより早期がんで診断数の減少割合が多い傾向がみられた。
さらに、食道がん(12.6%)、胃がん(14.1%)、結腸がん(9.2%)、直腸がん(9.3%)、非小細胞肺がん(10.9%)、乳がん(10.9%)、前立腺がん(12.1%)、子宮頸がん(12.0%)の切除患者数が減少したことも確認された。
新型コロナ禍の影響により10がん種合計で2万8817人ががん切除の機会を失ったと推定される。2020年度の新型コロナウイルス感染症を直接原因とする死亡数は3492人であり、その8倍のがん患者が切除治療の機会を失ったことになる。