国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)海洋機能利用部門生物地球化学センターの原田洋太研究員及び大河内直彦センター長らは、東京大学大気海洋研究所の伊藤進一教授や水産研究・教育機構米田道夫主任研究員と共同で、水晶体から魚の生態を解析する方法を開発した。
人類が持続可能な海洋資源の利用を目指す上で、海洋生物の生態を深く理解することは不可欠だが、陸上生物に比べて知見はまだ十分ではない。魚のような海洋生物は、広大な海洋空間を三次元に長距離で移動することから観察が難しく、ここ数年、GPSなどの記録装置を魚に装着する方法であるバイオロギングが使われるようになったが、これらの方法は機器を装着できる魚のサイズやバッテリーの寿命などに制限がある。
そこで今回の研究では、魚の眼球の水晶体を用いて魚の生態を解析する方法の開発を試みた。水晶体は、魚が卵の中にいる頃から既に形成が始まり、付加的に成長することで木の年輪のように層を形成し、それが一生を通して保持されることから、玉ねぎの皮を剥くように成長層を時系列で採取することが可能。
水晶体には摂餌でしか得ることのできないフェニルアラニンというアミノ酸が含まれており、その窒素同位体比を分析することにより、分布海域や採餌履歴を推定できると考えられる。
今回、マサバを対象として同手法により解析した結果、仔稚魚期を窒素同位体比の低い亜熱帯海域(伊豆半島沖付近)で過ごし、成長と共により同位体比の高い亜寒帯海域(三陸沖方面)へ移動すると考えられてきたマサバの典型的な回遊を確認することができた。
この研究で開発した手法は、水晶体を持つほぼ全ての海洋生物に適用可能で、海洋生態学的研究や水産資源管理で重要な役割を果たすことが今後期待される。