2020年4月9日 AIによる温州みかん糖度予測手法を開発 早期予測を生産・出荷に活用し収益向上を目指す

農研機構は、温州みかんを対象に、前年までに蓄積された糖度データと気象データから、AI(人工知能)による機械学習を用いて当年の糖度を予測する手法を開発した。

高品質な温州みかんを生産するためには、摘果や水管理、施肥など様々な管理が必要となるため、その年の糖度をできるだけ早い時期に予測できれば、これらを適切に行うのに大きく役立つ。しかし、これまでに提案されている予測手法では十分な精度が得られないため、正確な手法の開発が望まれていた。

そこで、農研機構はJAながさき西海、長崎県と協力し、AIを利用した温州みかんの新しい糖度予測手法を開発した。

この方法では、機械学習の技術を用いて、出荷時の果実の糖度を地区(数~数十の果樹園を地域的にまとめたグループ)を単位として品種・系統別に予測するもので、前年の出荷時の糖度と当年の気象予測データを使用する。適切な栽培管理が可能となり、温州みかんの品質の向上に役立つと期待されている。

 

より精度の高い予測手法を求める声

高品質な温州みかんを生産する産地では、出荷品質の安定を図る目的から、収穫された果実の糖度や酸度が光センサーにより出荷時に全数検査され、膨大なデータが蓄積している。このデータを有効に活用し、収穫前の早い時期から当該年の糖度や酸度の傾向を予測できれば、果樹への乾燥ストレス付与や粗摘果、植物調整剤の施用など、高糖度が条件となるブランド果実の割合を高めるために必要な管理に反映することができる。

一般的に、温州みかんの糖度は10~13度程度であるため、予測手法の精度としては誤差0.5度(二乗平均平方根誤差)程度以下が望まれる。これまで、糖度予測手法として気象データを説明変数とした重回帰で推定する方法や、生育初期の糖度と出荷時の糖度との相関から推定する方法などが提案されていたが、いずれも誤差は1程度であり、より正確な予測手法が求められていた。

こうした状況の中、農研機構は、温州みかんの主要産地の一つであるJAながさき西海、長崎県と協力して、AIを利用した新しい糖度予測手法を開発した。

 

前年の糖度と当年の気象データから当年の糖度を予測

開発された手法では、出荷時の全数検査で得られた前年の糖度と当年の気象データ(気温、降水量、日射量、日照時間)を入力データとし、当年の糖度を出力データとして予測する。両者の関係は、予測の前年までに蓄積されたデータを機械学習して求める。

学習用データの選択により、品種や、早生など熟期別の品種・系統ごとの予測が可能。予測する糖度は数~数十の果樹園を地域的にまとめた地区の平均値となっている。

開発にあたっては、長崎県のJAながさき西海の支部を地区とみなし、14の支部が保有する、2009年~2019年の糖度の出荷時検査結果で手法の検証が行われた。

地区のグループごと、品種・系統ごとに2016年~2019年産温州みかんの出荷時の糖度を予測し測定値と比較した結果、予測値と測定値はよく一致し、予測全体の二乗平均平方根誤差は0.47度、誤差の最小値、最大値はそれぞれマイナス0.87度、プラス1.12度と、高い精度を得ることができた。

糖度を上げるための果樹への乾燥ストレス付与は、品種にもよるが、おおむね7月頃に開始される。この時点で出荷時の糖度が予測できれば、ストレスの強度や付与時期を調節することで、高糖度果実の生産が可能になる

そこで、一例として7月20日の時点で得られる気象予測データで同様の予測を行った結果、予測誤差はある程度増加するが、それでも全体の二乗平均平方根誤差は0.61度、最小値、最大値はそれぞれマイナス1.43度、プラス1.53度と実用的な精度であることが確かめられた。

予測の誤差は、予測する期間が長い(早くから予測する)ほど大きく、短い(収穫日に近い)ほど小さくなる。

開発された手法では、年ごとに取得される出荷時の果実データを逐次学習データに追加するので、今後、精度の向上が期待できるほか、温暖化の影響や管理技術の変遷も学習し精度を保つことが期待できる。

生育途中の果実の糖度を期日を定めて測定している産地では、その期日の糖度をこの手法で予測することも可能だ。

 

みかんの品質の向上と生産安定を図る管理への活用に期待

収穫前に糖度が予測できると、収穫作業、販売、出荷の計画に利用することができる。また、予測された糖度によって、糖度を上げるための栽培管理の要否を判断することもできる。このため、今回開発された技術が実用化されることで、これまで以上にみかんの品質の向上と生産安定を図る管理に活用できるものと期待される。

研究グループでは、今後、この予測手法をシステム化し、産地が栽培に活用できるようにして、高品質のみかん生産、生産者の収益向上を目指していくとしている。


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