2019年11月28日 小笠原諸島の自然再生事業の成功・課題 外来哺乳類を駆除して鳥の数を増やす

(国研)森林研究・整備機構森林総合研究所は、小笠原自然文化研究所と共同で、小笠原諸島聟島列島の国有林等での外来種ノヤギの駆除によりクロアシアホウドリ、オナガミズナギドリ、カツオドリの個体数が急速に回復することを明らかにした。

 

〔侵略的な外来生物の影響で在来生物が絶滅の危機に〕

小笠原諸島は多くの固有種の進化が見られる生態系の価値の高さから、2011年に世界自然遺産に登録されている。その一方で、侵略的な外来生物の影響で、在来生物が絶滅の危機にさらされている。

小笠原にはもともとコウモリ以外の哺乳類がいなかったため、外来哺乳類による影響が特に強く表れている。その中でも、植物を食べて森林を草地化・裸地化してしまうノヤギや、植物も動物も捕食するネズミ類は、生態系に大きなダメージを与えている。ノヤギとネズミ類は小笠原諸島で最も多くの島に侵入した外来哺乳類で、前者はこれまで約20の島で、後者は約30の島で侵入が確認されている。

小笠原では、林野庁や環境庁、東京都、小笠原村などにより、自然再生のための事業が多数実施されている。しかし、一度大きく破壊された自然は、その原因となった外来哺乳類を駆除してもすぐ元に戻るとは限らない。外来哺乳類の影響で環境変化や生物の絶滅などが起こっている場合は、駆除後もその影響が長期間にわたって残ることがその理由だ。

また、どの外来哺乳類がどの在来生物に影響を与えているかもまだ十分にわかっていない。このため、外来生物と在来生物の関係を解明するとともに、自然再生事業後の在来生物相の回復状況を明らかにすることが課題となっていた。

そこで、森林総合研究所では、ノヤギ駆除の効果を解明するため、根絶に成功した聟島列島で海鳥の回復状況を調査した。また、個体数が激減している絶滅危惧鳥類オガサワラカワラヒラの減少要因を明らかにするため、この鳥と外来哺乳類の分布の比較を行った。

 

〔聟島列島ではノヤギが姿を消してから約15年で海鳥の個体数が急増〕

聟島列島では、野生化したノヤギが原因で森林が消失し、草地や裸地が広がった。この地域では以前、森林内で多数の海鳥が繁殖していたと考えられるが、その数はとても少なくなっていた。この島々の自然再生のため、2000年前後に東京都等によってノヤギの駆除が行われたが、駆除後に鳥類の個体数がどのように変化したかは十分にわかっていなかった。

森林総合研究所では、東京都と共同で、聟島列島の聟島、媒島、嫁島でノヤギ根絶後に海鳥の巣をくまなく探索し、営巣数を記録してきた。その結果、聟島列島ではノヤギが姿を消してから約15年で、クロアシアホウドリ、オナガミズナギドリ、カツオドリなどの個体数が急速に増加していることが明らかになった。

特に影響が大きかった媒島では、ノヤギ根絶直後には10巣以下しかなかったオナガミズナギドリの営巣が、2017年には2000巣以上に増加するなど、その回復が顕著だった。

ノヤギは海鳥を捕食することはないが、歩き回ることで巣を破壊したり繁殖を邪魔したりしていたと考えられる。

一方、海鳥とは逆に小笠原で個体数が激減している鳥がいる。小笠原のカワラヒワは、過去には聟島列島から火山列島まで広く分布していたが、現在は母島属島と南硫黄島でしか繁殖していない。その減少原因はよくわかっていなかった。

そこで、研究グループは、カワラヒワと外来哺乳類の分布の比較を行った。その結果、この鳥はクマネズミが侵入した島では絶滅し、未侵入の島にのみ生き残っていることがわかった。クマネズミは木登りが得意なため、巣を襲い卵やヒナを捕食しカワラヒワを減少させたと考えられる。

現在もカワラヒワがいる母島属島には、クマネズミとは別種のドブネズミが侵入している。ドブネズミはクマネズミに比べ樹上利用が少ないため、カワラヒワが生き残れたと考えられる。しかし、人工巣を用いた実験では、母島属島でも樹上の巣が捕食されていた。

母島属島のカワラヒワは現在も減少を続けており、これはドブネズミの影響と考えられる。この鳥の保全には、まず母島属島のドブネズミを駆除して減少に歯止めをかけた上で、分布回復のため過去の繁殖地でクマネズミを駆除する必要がある。

また、小笠原の西島では、クマネズミを駆除した後にウグイスの繁殖集団が回復した例もある。

 

〔ノヤギ駆除が鳥類の保全に直接役立つことを世界で初めて明らかに〕

ノヤギは植物食なため、駆除を行うと植物が増えることが知られていた。しかし、今回の研究により、ノヤギ駆除が鳥類の保全に直接的に役立つことが世界で初めて明らかになった。これは、世界遺産地域における自然再生事業の意義を示す成果であり、今後の保全を推進する原動力になると注目されている。

また、海鳥は、排泄物を介して海から陸へ窒素やリンなどの栄養を運搬したり、種子を体に付着させて散布したりと、生態系を回復させる機能を持っている。海鳥の回復は単に鳥が増加したというだけでなく、こうした機能が回復したことを示している。まだノヤギが消滅させた森林が回復するには至っていないが、傷ついた生態系が海鳥の増加によって修復され、生物多様性の保全が推進されることが期待される。

オガサワラカワラヒワは、小笠原で最も絶滅の危険性が高い陸鳥だが、その保全には外来ネズミ類の駆除が必要だとわかった。小笠原では聟島列島や父島列島で外来ネズミ類駆除事業が行われているが、母島属島ではまだ行われていない。年々減少するカワラヒワを絶滅から救うためには、外来のドブネズミを早急に根絶する必要がある。


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