2019年5月29日 ミツバチの尻振りダンスを自動解読 巣内のビデオ動画から餌の場所を自動で推定

農研機構は、セイヨウミツバチの尻振り(8の字)ダンスを自動解読することにより餌として利用されている花の場所を推定する技術を開発した。

蜂蜜生産や施設園芸作物の花粉交配に広く利用されるセイヨウミツバチは、餌となる花の場所を尻振りダンスで巣の仲間に伝える。ダンスの継続時間が餌場までの距離、ダンスを踊る向きが太陽との角度を表すが、このダンス情報を読み取ってミツバチの採餌範囲を把握するには人による観察が必要な上、判読に長時間を要していた。

今回の研究では、一般的なビデオカメラを用いて巣箱の中を撮影したビデオ動画から自動でダンスを抽出・解読する手法が開発された。これにより、野外で飼育されるセイヨウミツバチの採餌範囲を効率よく推定できるようになり、ミツバチの飼育環境を的確に把握することができる。また、この飼育環境に餌源を確保するなどの環境管理を行うことで、花粉交配用ミツバチの増殖や国産蜜蜂の増産につながると期待されている。

 

尻振りダンスに込められた情報の解読

セイヨウミツバチは、蜂蜜やローヤルゼリーの生産だけでなく、イチゴをはじめとする施設園芸作物などの花粉交配にも広く用いられており、国内外問わず農業生産に重要な役割を果たしている。しかし、蜜源となる植物の栽培面積減少や土地利用・農地管理の変化の影響を受け、その飼育は年々難しくなっている。このため、養蜂場の周辺に餌源を確保するなど、飼育環境の改善が求められている。

また、セイヨウミツバチは、餌となる花の場所を尻振りダンスで巣の仲間に伝えることが知られている。

セイヨウミツバチは通常、野外で生育されるため、採餌などに利用している範囲を把握することが飼育環境の管理において重要となる。この採餌範囲を把握するのに、セイヨウミツバチの尻振りダンスを利用することができる。

採餌に出かけた働きバチは餌となる有用な花をみつけると、巣に戻ってから尻振りダンスを通じて仲間にその場所を伝える。ダンスの継続時間が餌場までの距離、ダンスを踊る向きが太陽との角度を表すが、このダンス情報を数多く読み取ることで、観察した巣箱のミツバチが採餌に利用している範囲を把握することができる。

これまでは、ダンスの解読には人による観察が不可欠で、巣内を撮影したビデオ動画を何度も巻き戻しながらダンスしている働きバチを見つけ、ダンスの方向と継続時間を計測する長時間の作業が必要だった。そのため、観察できる時間や巣箱の数に限りがあり、採餌範囲の日変化や季節変化をとらえることは困難だった。既往の試みはいくつかあるが、屋内の実験環境で、1秒間に100フレーム程度撮影できるハイスピードカメラや人工照明を使用する必要があり、実際に養蜂家が使う野外環境への適用は不可能だった。

そこで、今回の研究では、現場での実用化を重視し、一般的なビデオカメラを用いて野外で巣内を撮影した動画から尻振りダンスを自動で解読する技術を開発した。

 

粒子画像流速測定法による画像解析 自動でダンスを抽出・解読

今回開発された技術では、尻振りダンスをするミツバチを撮影したビデオ動画を用いて、粒子画像流速測定法(PIV)による画像解析から、自動でダンスを抽出・解読する。

この方法では、一般的なビデオカメラを用いて撮影したビデオ動画を解読するが、地上波デジタル放送と同程度のHD解像度(1920×1080ピクセル)、約30フレーム/秒が推奨されている。

手作業では30分間の動画を解読するのに数日を要していたが、このプログラムを用いることで、解読作業のほとんどをコンピューターに任せることができ、大幅に効率化できる。

また、開発した手法は、様々な養蜂場での採餌範囲の推定に使用することができる。動画の撮影には側面(一面のみ)をアクリル板にした巣箱が必要だが、この観察巣箱は、通常、養蜂で使われるものを少しアレンジするだけで作成することができ、観察の時以外は巣箱を通常の形に戻すことができる。

開発した手法を用いて採餌場所の密度推定マップを作成し、その精度を手動で読み取ったものと比較した結果、約70%程度の範囲が一致したが、これは比較的良好な精度といえる。

今回、ほぼ同時刻に数キロメートル離れた3つの巣箱で撮影した30分間の動画を用いた検証では、それぞれの巣箱から利用している餌場の方向や距離を特定することができ、巣箱ごとに利用している餌場が異なっているのが分かった。

 

花粉交配用ミツバチの増殖や国産蜜蜂の増産に期待

今回開発した技術を用いれば、ミツバチの尻振りダンス解読時間を飛躍的に短縮できる。その結果、採餌範囲の時間、日、季節変化を効率よく解析することが可能となる。採餌場所として主に利用している環境を的確に把握することで、例えば餌場が遠い、農地の近くが餌源になっているなどといった蜂群の育成環境の評価にも利用できるようになる。

さらに、こうした情報をもとに、必要な時期に餌場を確保するなどの環境管理が行われることで、花粉交配用ミツバチの増殖や国産蜜蜂の増産につながると期待されている。


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