2019年5月7日 絶滅危惧のオガサワラグワを各植物園で保存 里親第1号として都立神代植物公園へ苗木を受け渡し

森林総合研究所林木育種センターは、絶滅危惧種のオガサワラグワを全国各地の植物園で保存する「オガサワラグワ里親計画」をスタートした。

オガサワラグワは、小笠原諸島固有の樹木で、かつては島内の森林の主要な構成樹木だった。木目が緻密で美しく、貴重な木材として取引されていたため、明治の開拓期にその多くが伐採され個体数が激減してしまい、現在では絶滅危惧種に指定されている。残された個体も移入種のアカギやシマグワの影響で本来の生育地での存在が危機的な状況にあり、これらを保全するため、島内での生息域内保存に加え、組織培養技術を用いた生息域外保存が進められてきた。

今回の「オガサワラグワ里親計画」では、関係機関による確実な保存(分散保存)を行うとともに、オガサワラグワを含めた小笠原の自然について、多くの人に見て、知って、理解を深めてもらうことを目指し、日本各地の植物園での保存・展示を進めていくとしている。

また、4月26日には、里親第1号となる東京都立神代植物公園へのオガサワラグワ苗木の受け渡しが行われた。

 

林木育種センターと日本植物園協会の取組

茨城県日立市にある(国研)森林研究・整備機構森林総合研究所林木育種センターでは、わが国の貴重な林木遺伝資源の保存を図ることなどを目的とした林木ジーンバンク事業を実施している。さらに、この取り組みの一環として、小笠原諸島固有の樹木で絶滅危惧種のオガサワラグワを組織培養技術を用いて生息域外保存を行ってきた。

また、(公社)日本植物園協会は、全国の植物園で構成された団体。全国的な植物園ネットワークを通じて、植物園や植物に関する文化の発展と科学技術の振興、自然環境の保全に貢献する事業を実施し、人類と自然が共生する豊かで持続的な社会の実現に寄与することを目的として活動している。その中では、植物多様性の保全活動を行っており、絶滅危惧種等の収集、保存、展示にも力を入れている。

今回、林木育種センター、日本植物園協会、小笠原村とで覚書に基づき実施する「オガサワラグワ里親計画」では、日本植物園協会の会員である各地の植物園等が里親となってオガサワラグワの保存を行う。これにより、オガサワラグワが分散保存され保存がより確実なものとなるとともに、各地の植物園等で展示することにより、オガサワラグワを含めた小笠原の自然について、多くの人に見て、知って、理解を深めてもらうことを目指すとしている。

 

絶滅が危惧されるオガサワラグワ

オガサワラグワ原木

オガサワラグワは、小笠原諸島だけに生育するクワ属の樹木。かつては小笠原の原生林である湿性高木林の林冠を構成する主要樹種だった。その材は硬く耐久性が高く、緻密で木目が美しいため家具や工芸用として重用され、小笠原開拓期以降に伐採が進み、現在は母島、父島、弟島にわずか百数十本の成木が残されるのみとなっている。

母島や父島では、成木の個体密度が低いことや、移入近縁種のシマグワとの交雑が起こりやすいことから、純粋なオガサワラグワの種子がほとんど生産されず、アカギ等の移入種の繁茂が著しい。このため、天然更新の可能性は極めて低く、現存するオガサワラグワの成木の枯死が絶滅に直結する危険性が高いと考えられている。

 

里親第1号となる神代植物園

林木育種センターでは、こうした状況を勘案し、2004年より、林木ジーンバンク事業の一環として組織培養等のクローン増殖技術を用いて、生息域外保存を進めてきた。現在、既に原木が枯死してしまった個体を含む約100クローンを保存するに至っている。「オガサワラグワ里親計画」で保存・展示するのは、こうした組織培養技術により保存されているオガサワラグワのクローンである。

今回、里親の第1号としてオガサワラグワを保存・展示することとなった東京都立神代植物公園は、調布市にある面積約48ヘクタールのわが国を代表する都市型の植物公園。約4800種類、10万本・株の樹木が植えられ、伝統園芸植物の収集や、都内に生育する絶滅危惧植物の保護・増殖にも取り組んでいる。大温室では、世界中から様々な熱帯・亜熱帯の植物1300種が集められており、小笠原の植物を収集展示する小笠原植物室では、オガサワラグワのような希少植物についても保存・展示することができる。

 


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