2023年2月6日 【近畿大】世界初!イルカに触れずに年齢を推定する方法を開発 野生ミナミハンドウイルカの生態解明と保全に繋がる研究成果

□ポイント■

〇世界で初めて、野生のイルカに触れずに腹部の斑点模様から年齢を推定する方法を開発

〇水中観察のみで年齢が推定でき、低コストかつ野生個体への影響を最小限にすることが可能

〇伊豆諸島御蔵島のミナミハンドウイルカ個体群について、年齢不明であった個体の64%で年齢の推定に成功

 

近畿大学農学部水産学科(奈良市)の酒井麻衣講師、大学院農学研究科(同)修士修了生(現:三重大学大学院生物資源学研究科博士後期課程)八木原風(げんふう)さん、御蔵島観光協会の小木万布(こぎ かずのぶ)さんらの研究グループは、野生ミナミハンドウイルカの腹部に形成される斑点模様の量を観察することで、年齢を推定する方法を世界で初めて開発した。イルカに触れることなく水中観察のみで、年齢を推定することが可能になり、本種の保全や生活史の研究に貢献することが期待される。

この研究に関する論文が、1月31日に、海棲哺乳類学の国際誌「Marine Mammal Science」に掲載された。

年齢は、生物の生活史の解明や年齢別の個体数分布の把握など、生態・保全研究で重要な情報。これまでイルカの年齢は、歯の断面に形成される層を数える方法で推定されてきた。しかし、生きている個体から歯を採取することは現実的ではなく、野生イルカの年齢を把握する方法としては、個体を毎年識別し、出生からの年齢を数える方法がとられている。

この研究のフィールドである伊豆諸島の御蔵島でも、識別による年齢の把握が実施されているが、平成6年(1994年)からの調査であるため、それ以前に生まれた個体については年齢がわからず、野生個体の年齢を推定する新たな方法が求められていた。

研究チームは、先行研究「野生ミナミハンドウイルカの斑点パターンの年齢依存的な変化」で、ミナミハンドウイルカの腹部に現れる斑点模様が、規則性を持ち成長と共に出現することを明らかにした。研究では知見をもとに、斑点の出現度合いから年齢を予測する式の作成に取り組んだ。

酒井講師らの研究では、イルカの体を五つの部位に分け、それぞれの部位の斑点の出現度合いを3段階で評価した。さらに、数値でない情報を数値に変換して統計解析することを可能とする「数量化理論」という解析方法を用いて、年齢と斑点の関係式を作成することに成功した。

これにより、水中観察カメラに写るイルカの体表面を観察するだけで、年齢を推定することが可能となった。従来の年齢推定手法とは異なり、イルカに全く触れることがないため、野生個体への影響を最小限に抑えてデータを得ることができる。また、斑点の出現度合いを目測して評価するため、特殊な技術やソフトを必要とせず、現場で誰でも調査できる簡便さも同手法の強み。

この研究による予測式は±2.5歳程度の精度を実現しており、ミナミハンドウイルカの寿命が45~50年程度であることに鑑みると、生活史や保全研究に十分使用可能。実際に同手法を用いて、御蔵島周辺に生息する年齢不明の89個体について年齢推定に成功した。これにより、御蔵島周辺でこれまでに発見されたイルカの内、85%以上の年齢が明らかとなった。特に、これまで年齢に関する情報が全くなかった平成6年(1994年)以前に生まれた比較的老齢な個体の年齢を得ることができた。

ある地域に住む集団を構成する個体の年齢情報が85%以上収集されている例は稀で、この研究成果はミナミハンドウイルカの一生を通した生態の解明に繋がるもの。今後、年齢ごとの死亡率などが明らかになれば、個体群の絶滅のリスクを検討することもできるようになるという。


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