2022年8月30日 【原子力機構・量研】重粒子線治療の全身被ばく線量評価システムが完成―過去の重粒子線治療の症例から学び、未来の放射線治療に活かす―

国立研究開発法人日本原子力研究開発機構などの研究グループは、重粒子線治療後の2次がんなどの副作用の発生原因を究明することを目的として、患者の全身を対象とした線量評価システム『RT-PHITS for CIRT』を開発した。

放射線治療では治療を行う腫瘍領域以外の正常組織への照射を完全に無くすことはできず、正常組織でがん(2次がん)などの副作用が発生するリスクがある。2次がんなどの確率的に非常に低い割合で起きる晩発の副作用の原因を究明するには、患者体内の詳細な被ばく線量分布を基に、臓器ごとの被ばくがどの程度で、それにより副作用がどれくらい発生しているのかを膨大な数の患者に対して調べる必要がある。

重粒子線治療ではエックス線やガンマ線を利用する治療に比べて2次がんの発生率が有意に低いとの報告があるものの、統計的に十分な症例データに対して、治療部位から離れた正常組織への被ばく線量を調べるシステムがなく、定量的な評価がされていなかった。

そこで、原子力機構と量研では重粒子線治療後の副作用の発生原因の調査に必要となる詳細な被ばく線量データを取得するために、治療部位から遠く離れた正常組織を含む全身の正確な線量分布を評価できるシステムを開発した。

同システムは、重粒子線治療の治療計画データ(照射装置の部品配置や患者体系の情報を含む)から治療時の照射体系の再構築に必要な情報を抽出し、コンピュータ上の仮想空間に再現する。

さらに、原子力機構が中心となって開発したモンテカルロ放射線挙動解析コードを用いて、照射体系内の重粒子と2次粒子の挙動を正確にシミュレーションする。

この取組により、従来の線量評価に使用していた治療計画装置では評価ができない患者の体内や照射装置内で生じた2次粒子(中性子など)からの被ばくを含めて患者全身の詳細な線量分布の評価を実現した。また、治療計画データを直接読み込み、線量分布を自動的に計算するシステムとすることで、膨大な数の患者データを処理できる体制を整えた。

同システムは、世界最多の重粒子線治療実績を持つ量研で、過去に実施した重粒子線治療の再評価に活用される予定。評価結果を治療後の疫学データと組み合わせることで、2次がんなどの放射線治療後の副作用と被ばく線量の相関関係を明らかにすることができる。

この症例データの再評価を通して重粒子線治療の2次がん発生率の低い理由や放射線治療での副作用の発生の仕組みを究明し、現状の腫瘍周辺のみの線量を評価する治療計画を超えて、将来的な副作用の発生リスクの低減を考慮した新たな放射線治療計画へと発展することが期待される。


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