2023年5月11日 【十文字学園女大】「ブランコ漕ぎのコツ」の論文が米国専門誌に掲載 サイエンスやネイチャーなど各国のメディアで紹介

十文字学園女子大学教育人文学部心理学科の平田智秋教授と社会情報デザイン学部社会情報デザイン学科の北原俊一教授は、名古屋大の山本裕二教授、北海道大の郷原一寿名誉教授、豪州マッコーリー大のマイケルJ.リチャードソン教授と共同して、力学シミュレーションと動作解析を用いて、ブランコを上手に漕ぐためのコツを明らかにした。この報告は4月10日付けで米国の物理学の専門誌であるPhysical Review Eに掲載された。この論文についてはScience、Natureはじめ、各国のメディアで紹介されている。

座ってブランコを漕ぐには、上体を周期的に倒して起こす動作の繰り返しが必要。上体とブランコの動きそれぞれを波として考えると、ブランコ漕ぎは二つの波の関係として記述できる。ブランコや上体動の一往復に要する時間を周期、二つの波の時間的なずれを「位相」という。これまでブランコ漕ぎの研究では主に、周期が注目されてきた。

平田教授らの研究では、ブランコを上手に漕ぐには位相の調整も同様に重要であると力学シミュレーションにより理論的に示し、シミュレーションによる理論予測の通りに、実際のブランコ漕ぎでも位相が調整されていることを動作解析から実証した。

■研究のポイント□

⑴これまでの研究で分かっている通り、鎖の長さと振幅(ブランコの振り幅)によって、ブランコの周期は誰が漕いでもほぼ等しい値に収束する。そしてブランコの振幅が大きくなるほど、その周期は延びる。このブランコ周期の変化に合わせて、上半身の周期を調整すると、上体とブランコとが共振し、ブランコの振幅は大きくなる(=増幅)。

⑵ブランコと上体動との位相を、ブランコが背面側の極限にある時点と、上半身が最も大きく後ろに倒れた時点との時間差とする。力学シミュレーションから、ブランコの振幅を最も効率よく増大させる位相について以下の予測が得られた。すなわちブランコの振幅が小さいとき、ブランコが前進しながら最下点にくるタイミングで上体が最も大きく倒れると、増幅が最も大きくなる。ブランコの振幅が大きくなってくると、振幅を大きくするための位相、つまり上体を最も大きく倒すべきタイミングは、ブランコの背面極限と最下点との間へと、少しずつ早まっていく。

⑶実験室内にブランコを設置し、特別な訓練を受けていない一般学生10名によるブランコ漕ぎを動作解析した。結果、力学シミュレーションが予測した通り、ブランコの振幅が小さい初期段階では、ブランコが最下点にあるときに上体が最も大きく倒れた。ブランコの振幅が大きくなると、上体が倒れるタイミングはより早い時点へとシフトした。このような位相のシフトは10人の実験参加者全てに共通して見られた。したがってブランコを漕ぐとき、周期だけでなく位相の調整も重要であると示された。

⑷ブランコを上手に漕ぐには位相の調整も重要だと分かったが、一般の漕ぎ手がどうやって、上半身の動きの周期と位相とを同時に調整しているのか、本研究からは分からない。ブランコが1往復する周期はおよそ2〜3秒であるが、ブランコの増幅に伴う位相のシフトは100分の1秒単位の、とても繊細な調整である。これを一般の漕ぎ手が意図的に行っているとは思えない。しかし、このブランコ増幅に伴う上体動の位相シフトは、すべての実験参加者で観察される極めて一般的な現象である。そこで今後は「遠心力や慣性力など見えない外力が上体動の位相シフトを導く」と仮説をたて、上体動の位相シフトの機序を検証する。そのため遠心力など見えない外力が生じないVR(ヴァーチャル・リアリティ)環境にブランコを構築し、そこでの漕ぎ方を動作解析する。もし位相シフトが見えない外力の影響を受けるのなら、VR環境では位相シフトが起こらないはずである。


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