2020年7月16日 高次倍数体農作物の農業形質を解析 新たな手法を開発、高収量を目指す育種可能に

かずさDNA研究所、岡山大学、農研機構九州沖縄農業研究センターは共同で、高次倍数体農作物における果実の大きさや収量などに関わる遺伝解析法を開発した。

 

進まない高次倍数体の「量的形質」に関する遺伝子の解析

ゲノム解析技術の向上により、トマトやイネなど主要な野菜や穀物のゲノムが解析され、その情報を生かした育種が行われるようになっている。イネなどのように、両親からそれぞれ受け継いだ1対のゲノムを持つ二倍体の作物では、ゲノム情報を用いた育種が行われるようになっている。まずは、花の色などのように単一の遺伝子が支配し、形質がメンデル遺伝する「質的形質」がDNA情報を用いた育種のターゲットになり、その後技術の進歩により、植物体の大きさや果実の色や形など、複数の遺伝子の効果の総和によって支配されることが多い「量的形質」と呼ばれる農業形質についても統計遺伝学的解析により予測ができるようになり、収量の多い品種の育成などに用いられている。

しかし、コムギ、バレイショなどの栽培作物の多くは、ゲノムを2対もつ四倍体や3対もつ六倍体などの高次倍数体である。高次倍数体は植物体全体が大きくなり、環境適応性が高いなどの有用な特徴を持っているが、ゲノムの量が多く、ゲノムの解析は行われているものの、十分活用されているとはいえない。

これまで研究グループでは、高次倍数体の遺伝解析のため、対立遺伝子の有無に着目した解析手法を開発し、キクの花の色やサツマイモの線虫抵抗性などの「質的形質」を支配する遺伝子を明らかにしてきた。しかし、「量的形質」に関する遺伝子については二倍体作物に比べて格段に複雑になるため、解析はあまり進んでいない。

こうした背景の下、今回の研究では、統計遺伝学的解析をさらに進め、少ないデータからでも遺伝解析を行うことができるngsAssocPoly(エヌジーエス・アッソク・ポリ)法の開発を行った。

この研究でかずさDNA研究所は研究計画の立案と全体のとりまとめ、塩基配列データの取得とゲノム情報解析、遺伝解析の部分を担当。岡山大学と農研機構九州沖縄農業研究センターは遺伝解析用の植物材料の作成を担当した。

 

ngsAssocPoly法の特徴

従来の高次倍数体の解析では、対立遺伝子の数を正確に決めることを目的としていたことから、コストのかかる大規模な実験を要していた。これに対し、今回開発された方法では、次世代シークエンサーが検出する対立遺伝子の頻度から各対立遺伝子の存在確率を算出することにより、その確率に基づいて遺伝解析を行う。この統計手法を確立することで、対立遺伝子の数が正確に決められなくても、高い精度で遺伝解析ができるようになった。

また、この方法を用いて、六倍体であるサツマイモで遺伝解析が行われた結果、量的形質であるサツマイモのつるの長さ(節間長)が、対立遺伝子の数に依存して変化することが明らかになった。

また、さらなる解析により、DNAマーカー解析により個々の対立遺伝子の数を正確に算出するよりも、ddRAD‐seq法などによりゲノム全体を網羅するデータを取得する方が、高次倍数体の遺伝解析に有用であることが見出された。

ngsAssocPoly法は、多くの高次倍数体に適用することが可能。このため、様々な主要作物の品種改良への応用が期待される。


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