岡山大学病院予防歯科の入江浩一郎講師、愛知学院大学、三重大学の共同研究グループは、歯科検診の受診者3390人を対象に5年間の追跡研究を行い、男性における歯周病の発症リスクが職種で異なるとの研究結果を発表した。
歯周病は、口腔内の細菌によって発症する慢性炎症性疾患。喫煙やアルコール摂取といった生活習慣が、歯周病の危険因子になり得ることが指摘されている。
近年、職業や経済力などの社会経済的要因の違いで、健康に格差のあることが指摘されている。
今回の研究によって、生産工程・労務従事者、販売従事者および運輸・通信従事者は、専門的・技術的従事者と比べて歯周病の発症リスクが3倍近く高いことがわかった。
精神的なストレスが悪影響
研究グループでは、勤務形態や長時間労働などに由来する精神的なストレスは、歯科保健行動に悪影響を与える。職業間における歯科保健行動の違いが、職業較差の原因となっている可能性を指摘している。
また、現在、職域における歯科検診は任意となっているが、歯周病発症リスクが高いことが判明した生産工程・労務従事者、販売従事者、および運輸・通信従事者に対しては、今後の成人期における歯科保健では、定期的な歯科検診と歯科保健指導の実施が強く推奨されると警鐘を鳴らしている。
岡山大病院予防歯科の入江浩一郎講師、愛知学院大の嶋崎義浩教授、三重大の山崎 亨助教の共同研究グループは、名古屋市内における歯科検診の受診者3390人(男性2848人、女性542人)を対象に2001年度から2006年度までの5年間の追跡研究を実施。
研究結果から、男性では、専門的・技術的従事者と比較して、生産工程・労務従事者は2.52倍、販売従事者は2.39倍、運輸・通信従事者は2.74倍も歯周病発症リスクが高くなっていた。
これらの職種は、長時間労働や十分な睡眠や休息が取れない傾向にあり、職業に由来する精神的なストレスが高いことが報告されている。
また、職業による精神的なストレスは、歯磨きやうがい習慣などといった歯科保健行動に悪影響を及ぼすことが知られている。研究グループでは、職業間における歯科保健行動の違いが、職業間で歯周病発症に差が生じた原因になったと推測している。
女性は有意な関連なし
一方、女性においては、歯周病の発症と職業との間に有意な関連はなかった。研究グループでは、女性は男性に比べ、健康に対して気を遣う傾向にあり、社会経済学要因を受けにくいのかもしれないと分析している。
職業は収入、学歴と並ぶ代表的な社会階層の指標。先進国において、さまざまな健康問題の格差が認められている。近年さらに健康較差が拡大しているとの指摘も少なくなく、社会的安定面での懸念材料として、喫緊の課題になっている。