2023年6月14日 複雑な地形の日最低気温をピンポイントに推定 作物の凍霜害対策や生育予測での活用に期待

中山間地や傾斜地など、地形が複雑な場合、農地の立地によって1日の最低気温は1kmメッシュごとに提供される気象データの値より10度近く低くなることがある。農研機構は、夜間の放射冷却に伴って発生する冷気流の動きを考慮し、5mメッシュで日最低気温を推定できる手法を開発した。今後、傾斜地や丘陵地など地形が複雑で冷気流が発生しやすい場所に立地する農地についてピンポイントな気象データの整備と提供に貢献し、作物の凍霜害対策や生育予測に役立つことが期待される。

 

極端気象に適応した農業の実現のため気象データを利用

近年、気候変動やそれに伴う豪雨、猛暑といった極端気象が問題になっている。これらに適応した農業を実現するため、農業分野における気象データの利用が急速に増えている。また、作物の生育や土壌水分の変化、雑草や病虫害などの発生状況に応じた高度な栽培管理を行うためにも、気温や降水量といった気象情報が必要となる。こうした場合、全国の気象観測所で測定された気象データを利用するのが一般的だが、気象観測所は数10kmに一地点の割合でしか設置されていない。

日本では、丘陵、山麓、台地などの傾斜面や狭小な谷底低地など、複雑な地形で営まれる農業も多く、このような地形では、気象が空間的に細かく変動している。そのため、数10kmに一ヵ所しかない気象観測所のデータを利用した画一的な管理では局所の正確なデータが得られず、凍霜害などの気象災害のリスクが大きくなる可能性がある。こうした農地では、実際のほ場の大きさに合わせて数mから数10mごとに気象データを得ることが理想的であり、それを可能にする手法、システムの構築が求められている。

 

冷気流の動きを考慮した手法の開発

農研機構はこれまで、「メッシュ農業気象データ」を開発し、約1kmのスケールで気象データを提供することで、作物の栽培管理支援や生育予測などに役立ててきた。しかし、1kmスケールの気象データでも、実際のほ場の気象データと異なる場合がある。特に、中山間地の農地(茶園、果樹園など)では、1日の最低気温が「メッシュ農業気象データ」が提供する値より低いという報告が多く寄せられていた。

その原因として、夜間の放射冷却に伴う局所的な冷気流により、冷気が流れ込む谷部分と周辺とで気温差が生じることがあげられる。今回の研究では、この冷気流の動きを考慮し、1kmよりも細かい空間解像度で日最低気温を推定できる手法の開発に取り組んだ。

 

複雑な気象観測を必要とせず気温測器と標高データで利用可能

研究では、「どこ」が冷えやすいかを表す指標として、標高データから得た累積流量が使用された。これは、標高データから計算される地形の勾配に基づき冷気の流れる方向を累積したもので、冷気が溜まりやすい地点ほど値が大きくなる。これにより、使用する標高データと同じ空間解像度(今回の研究では5mの解像度の標高データを使用)で冷気流の動きを推定することが可能になった。

一方で、「いつ」冷気流が起こるのかの指標として、最低気温を推定したい範囲内の代表地点において測定した2高度の気温から計算される放射冷却強度が使用された。今回の研究では、高さ2.0mと9.0mの気温が測定されたが、高さは任意に設定が可能。累積流量と放射冷却強度の2つの指標と現地で観測した最低気温との関係を数式化することで、「メッシュ農業気象データ」の任意の日の最低気温を5mの空間解像度で補正する。

実際の複雑地形地(埼玉県入間市の丘陵地)で検証した結果、既存の「メッシュ農業気象データ」では再現することができなかった日最低気温(最大で7度の誤差)を、累積流量と放射冷却強度を用いることで精度よく再現できることが分かった。

この手法は風速や放射の測定といった複雑な気象観測を必要とせず、気温測器と標高データがあれば利用可能なため、その他の様々な農地でも比較的容易に検証と適用が可能であり、実用的であると高く評価されている。

 

非常に細かい空間解像度での最低気温の推定が可能に

今回開発された手法により、5mという非常に細かい空間解像度で最低気温を推定することが可能となった。

研究グループでは今後、さらなる現地検証を行った後、「メッシュ農業気象データ」とこの手法を組み合わせ、任意の場所と任意の日において最低気温のデータを提供できるシステムの構築を図るとしている。

こうしたシステムは、生産者や公設の農業試験場が農作業の適否の判断や作業スケジュールの立案をする際に役立つだけでなく、気象会社が気温予報を出す際や企業が環境アセスメントを実施する際に、より詳細な気温データが得られるなど、農業以外の分野でも活用されることが期待されている。


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