2021年9月28日 無人機による施設点検の手引き作成 農業水利施設・海岸保全施設の点検労力を2割削減

農研機構は、国際航業(株)と共同で、農業水利施設や海岸保全施設の点検を効率的に行うため、ドローンなどの無人航空機(UAV:Unmanned Aerial Vehicle)を活用した点検手法を開発し、現地実証試験を実施してきたが、8月26日にその手法の手引きを公開した。この中では、農業用ダム、頭首工、用排水機場、開水路等の農業水利施設、海岸保全施設の合計16ヵ所を対象に行った老朽化判断の実証試験をケーススタディとして整理しており、現場技術者が具体的かつ効率的に施設の点検が行えるようとりまとめられている。農研機構ウェブページからダウンロードすることができる。

 

UAVを活用したインフラ 点検の技術動向

基幹的な農業水利施設のうち、ダム、頭首工、用排水機場が約7000ヵ所、用排水路は約5万キロメートルが整備されているが、これらの施設の多くは老朽化が進行しており、今後、適正な維持管理により長寿命化を図る必要がある。

一方、施設の維持管理では点検が重要だが、費用と人材が限られているため、効率的な点検手法が求められている。

UAVは、機体やソフトウェアの低価格化、デジタルカメラの高性能化等で空撮画像から3次元データを手軽に生成可能となり、インフラ点検での活用が増えている。さらに、今後のUAVの性能向上、計測・画像処理技術、AI等の情報技術の発展により、施設の点検が高度化かつ効率化されていくことが見込まれる。

また、UAVを使用した空撮は、一般での使用が広がりつつある。しかし、空撮画像から正確なコンクリート表面のひび割れ判定や施設の3次元データを作成するには、機材の選定や飛行方法、データ処理の方法など、様々な点で経験に基づいた専門知識が必要なため、現場技術者がUAVを使用した点検を目視点検に代わる高い精度で行うことは難しい。加えて、多様な農業水利施設の工種ごとに点検の経験を積むのにも時間を要するという課題がある。

こうした中、国際航業(株)と農研機構は、秋田県立大学と共同で官民連携新技術研究開発事業(農林水産省、H26~28)で、UAVを活用して効率的に農業用の水路や海岸堤防の沈下、ひび割れ等の劣化を検出する技術を開発し、その成果をUAV計測を活用した点検調査の総論としてとりまとめ、平成29年3月に「農業水利施設及び海岸保全施設のストックマネジメントのための無人航空機(UAV)活用の手引き(案)」として公表した。

さらに、国際航業(株)と農研機構は、応用技術(株)、(株)水域ネットワーク、富士フイルム(株)と共同で「『知』の集積と活用の場による研究開発モデル事業(生物系特定産業技術研究支援センター、H28~R1)」において、ダム、頭首工、用排水機場でUAVを用いた施設の点検を実証するとともに、開水路と海岸保全施設で実証地区を追加し、写真測量で生成した3次元モデルによる計測精度の検証を進めてきた。

今回、この取組で実施したUAV計測による施設ごとの調査をケーススタディとして整理し、現場技術者が具体的かつ効率的に施設点検に利用できるよう、実習編の手引きとして「UAV計測点検手法の手引き(案)―海岸保全施設及び農業水利施設―(R3年3月)」をとりまとめた。

 

実証試験に利用したUAV(計測型)(プレスリリースより)

施設ごとの撮影方法、3次元データの解析方法などを具体的に説明

研究では、従来の目視や計測による点検とUAVを活用した点検を行った場合の開水路と海岸保全施設での点検労力(人・日)を比較。その結果、UAVの活用により約2割省力化できることが分かった。

実証試験では、計測に使用されるUAV(計測型UAV)に加え、一般に流通する汎用機(簡易型UAV)を用いて点検を行い、判別できるコンクリート構造物のひび割れ等の判読精度から各機種の適応範囲を明らかにした。

また、実証試験では、GNSS単独測位による自律飛行を基本としつつ、UAVを安定的に飛行させて写真撮影時の機体の動揺や位置のズレを抑えて写真測量の精度を高めるため、UAVの位置計測にRTK‐GNSS測位システムを導入した場合の飛行安定性についても評価し、RTK‐GNSS測位の導入がUAVの飛行ルートの精度を高めるのに有効であることを示した。

今回公表された手引きは、こうした研究の成果をもとに、現場の技術者がUAV計測を用いた農業水利施設、海岸保全施設の点検調査に活用できるよう、施設ごとの撮影方法、3次元データの解析方法などを具体的に説明している。

さらに、デジタルカメラを搭載したUAV、3次元モデリングソフトウェアを用いた空中写真撮影により、写真画像を用いたひび割れ判読や対象構造物の3次元データに基づく構造物の変状抽出を行い、施設維持管理への適用可能性を検討し、UAV計測の精度、効率性等についての事例をとりまとめている。

この手引きが現場技術者に広く活用され、点検・維持管理作業に効率的かつ安全に従事することが可能となり、研究で開発したUAVの3次元計測をはじめとする新たなICT技術が、将来のインフラ管理手法への発展・活用のきっかけとなることが期待される。

 


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