2021年9月27日 水の分析だけでカワヒバリガイを検出 貯水池などへの侵入の対策が可能に

農研機構は水利施設などの通水障害の原因になるカワヒバリガイを、侵入後間もない低密度な段階で検出する技術を開発した。

カワヒバリガイは、農業用の通水パイプを詰まらせるなど、水利施設の運用に被害をもたらす特定外来生物の二枚貝。国内では1992年に琵琶湖で初めて生息が報告され、その後、関東・東海・近畿の12都府県で生息が確認されている。近年では、水路などを経由した分布拡大が報告されており、早期の発見と素早い対応が求められている。

カワヒバリガイが貯水池などに侵入間もない段階では、カワヒバリガイの個体密度が低く、目視などの従来の調査ではその生息を見落とすことが問題となっていた。そこで農研機構は、現地で採集した水サンプルに含まれるカワヒバリガイ由来のDNAを検知する調査手法を開発し、その有効性を通常の調査手法と比較・検討した。その結果、環境DNAを用いた調査手法は従来の目視調査や幼生の密度調査に比べてカワヒバリガイを検出する効率が高いことが示された。

この調査手法は、現地では少量の水を採集するだけで済むため、調査に伴う労力も少なく、貯水池などの施設の運用にもほとんど影響を与えない。そのため、これまで調査の行われなかった未侵入や侵入の初期段階の地域でも活用が期待される。

 

水路や貯水池で大発生して通水パイプなどを詰まらせる「カワヒバリガイ」

「カワヒバリガイ」は、中国・朝鮮半島が原産の固着性の二枚貝。この貝は水路や貯水池で大発生して通水パイプなどを詰まらせるなどの問題を引き起こすとともに、侵入先の在来生態系に大きな変化を引き起こすことが知られている。農研機構のこれまでの研究でも、カワヒバリガイが水路や貯水池などの水利施設を経由し、水系を超えた範囲まで分布の拡大をしていることが明らかになっている。

カワヒバリガイによる被害の拡大を抑制するためには、水利施設などにおける侵入・定着をいち早く検知し、密度が低く分布が限られた段階で駆除対策(貯水池の水抜きによる貝の除去など)を実施することが重要となる。しかし、従来の調査手法では調査に要する時間と労力が大きい上、発見効率が低く、侵入間もない少数の個体を見落とす場合があることが問題になっていた。

 

サンプル中に含まれるカワヒバリガイ 由来のDNA検知する調査手法を開発

近年、様々な生物が環境中に放出する生物由来のDNA(環境DNA)を検出する方法が開発されるようになった。そこで、農研機構では、現地で採集した水サンプル中に含まれるカワヒバリガイ由来のDNAを検知する調査手法を開発するとともに、その手法と従来行われてきた調査手法の効率を比較・検討し、その有効性を明らかにした。

今回新たに開発されたのは、カワヒバリガイのDNAを特異的に増幅するプライマー対。これを用いることで、カワヒバリガイに近縁な貝類の中から、カワヒバリガイ由来のDNAのみを高感度に検知することが可能となった。

新たな調査手法では、貯水池の表層から採集した水サンプルを実験室に持ち帰り、グラスファイバー製の濾紙を用いてサンプル中の環境DNAを捕捉する。この濾紙に含まれるカワヒバリガイ由来のDNAをリアルタイムPCR法により定量した。

次に、環境DNAによる調査の有効性を検証するため、カワヒバリガイの生息する水源を利用している15ヵ所の貯水池を対象に、①目視観察と、②カワヒバリガイの浮遊幼生調査(100~200リットルの水をプランクトンネットで濾過し、実体顕微鏡下で幼生を計数する)、③環境DNA調査を行い、カワヒバリガイの有無を比較した。その結果、③では①、②でカワヒバリガイが確認された貯水池以外にも複数の地点からカワヒバリガイのDNAが検出された。これら地点のDNA濃度は低く、低密度のカワヒバリガイが生息している可能性がある。

 

より早い効率的な対策の実施への貢献に期待

新たな調査手法では、多様な条件下でカワヒバリガイの侵入・定着の可能性を高感度に把握することができる。さらに、貯水池などの運用にほとんど影響を与えない。調査に要する時間も短いため、広い範囲での網羅的な侵入状況の調査を行うことができる。そのため、環境DNAの調査結果にもとづいて生息・被害状況の調査を重点化する、より早い段階での駆除に着手するなど、より早く効率的な対策の実施に貢献することが期待される。

 

水利施設に大量発生したカワヒバリガイ(プレスリリースより)


株式会社官庁通信社
〒101-0041 東京都千代田区神田須田町2-13-14
--総務部--TEL 03-3251-5751 FAX 03-3251-5753
--編集部--TEL 03-3251-5755 FAX 03-3251-5754

Copyright 株式会社官庁通信社 All Rights Reserved.