2022年5月16日 気候ストレスの影響を地球規模で評価 森林分布が拡大・縮小する地域を高解像度で推定

(国研)森林研究・整備機構森林総合研究所、(国研)国立環境研究所らの共同研究グループは、植物にとっての様々な気候ストレスが森林分布に与える影響を地球規模で評価できるモデルを新たに開発した。これにより、気候が変化することで森林分布が拡大・縮小する地域を、約1平方キロメートルの高解像度で推定することが可能になった。この研究成果は、「森林の二酸化炭素吸収能力が今後も維持されるのか」を知る上で重要な情報になると期待されている。

 

3つの気候因子を統合して気候ストレスを数値化

森林は、光合成により二酸化炭素を吸収することで、気候変動の緩和に貢献している。しかし、気候変動がこのままのスピードで進行し、気候や降水量などの気候条件が大きく変化した場合には、森林の分布そのものが大きく変わってしまう可能性がある。気候変動に対する森林の応答は複雑で、地域によって大きく異なることが予想される。このため、現在の森林の二酸化炭素吸収能力が今後も維持されるのかを知るためには、将来、どの地域でどの程度森林の分布が変化するのかを地球規模で定量的に予測する必要がある。

しかし、気候ストレスに対する樹木の応答についての知見は、特定の種や分類群に限られているため、気候変化に対して、森林分布が地球規模でどのように応答するかを予測することは困難だった。

そこで今回の研究では、植物の光合成活性に影響を与える3つの気候因子(乾燥、日射、気温)を統合することで、植物にとっての気候ストレスを数値化し、この指数が気候変動によってどのように変化するのかを地球規模かつ高解像度(赤道付近で約1平方キロメートルの格子ごと)で推定した。さらに、現在の気候ストレス指数と森林分布との関係をみることで、気候変動による地球規模の森林分布の変化を高解像度で推定した。

 

「年間を通じた乾燥」「初夏の低温」が森林の分布限界と関連

具体的には、現在の気象データを用いて、乾燥度、日射量、気温を組み合わせた7つの気候ストレス指数を地球規模で算出。これら7つのストレス指数と、衛星画像をベースにした現在の地球の土地被覆(森林、低木・草地、裸地、氷・雪)との関係を機械学習によってモデル化し、現在の森林の成立や欠落に強く関係する気候ストレス指数を明らかにした。さらに、構築したモデルに、全球気候モデルによって予測された将来気候下の気候ストレス指数を当てはめることで、将来の森林分布の変化を高解像度で推定した。

その結果、「年間を通じた乾燥」と「初夏(日射量が多い時期)の低温」が、地球規模での森林の分布限界と関連性の高い気候ストレスであることがわかった。北半球の高緯度地域では、日射量が多い時期の平均気温が約7.2度を下回ったあたりから、森林の成立が難しくなる傾向があった。中緯度の乾燥地域周辺では、乾燥度が0.45を下回ったあたりから、森林の成立が難しくなる傾向があった。気候変動によって森林が拡大しやすい地域は、縮小しやすい地域より面積的には大きいことが予測された。また、両地域は地理的に離れていることが示された。

 

将来の森林の脆弱性をより良く評価できるようになることに期待

今世紀中ごろまでに世界の温室効果ガス排出量を実質ゼロにするという世界的な目標を受け、森林の二酸化炭素の吸収能力に期待が寄せられている。今回の研究成果は、こうした目標に対する森林の貢献度を評価する上で重要な知見となる。

また、気候変動によって森林が拡大しやすい地域と縮小しやすい地域は地理的に離れており、生態系の特徴が大きく異なっている。そのため、気候変動による森林分布の変化は、森林の二酸化炭素吸収能力だけでなく、地球の陸域全体の生物多様性にも大きな影響を与える可能性があることに注意する必要がある。

将来的に、極端な気象現象が頻発することで、台風や山火事、病虫害などの自然災害による大規模な森林破壊が増加することが懸念されている。今回の研究で開発された手法による気候の変化に脆弱な森林の予測と、これらの自然災害の発生リスク評価を統合することで、将来の森林の脆弱性をより良く評価できるようになると期待される。

 

【本研究で推定した気候ストレス指数(プレスリリースより)】

黒塗りの四角は植物の光合成活性に影響を与える3つの気候因子で、白抜きの四角は気候因子間の相互作用を示す。①~⑦は、本研究で開発した7つの気候ストレス指数。これら7つの指数値を地球規模で算出し、地球の土地被覆との関連をモデル化した。初夏は、最も日射量の多い時期を示す。


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