2021年4月28日 果樹害虫のカメムシ、振動に感受性 殺虫剤頼らない防除の新技術開発へ

農研機構は、果樹害虫のチャバネアオカメムシが振動に対して感受性を持つことを初めて解明した。

チャバネアオカメムシは、果樹の主な害虫であり、防除のために殺虫剤散布が行われている。カメムシの発生量が多い年には、残効性が長く対象範囲の広い殺虫剤を数回散布する必要が生じるため、生産者への負担となっている。こうした殺虫剤の多用は、天敵を殺してしまい他の害虫が大発生する要因となるとともに、殺虫剤の効かない害虫を生み出すことにもつながる。また、農薬使用量の削減は、環境負荷低減のためにも重要である。このため、農研機構と森林総合研究所では、殺虫剤だけに頼らない新たな防除法の開発を進めている。

今回の研究では、振動発生装置を用いて様々な条件の振動をカメムシに与え、反応の観察が行われた。その結果、カメムシは、振動に対して「停止する」、「伏せる」、「歩きだす」、「足踏みする」等の行動を示し、特に150Hzや500Hz等の低い周波数に対し感受性を持つことが明らかになった。

この成果から、振動によってカメムシを追い払うという、これまでになかった新しい物理的防除技術につながる可能性があると期待されている。

 

〔果樹や針葉樹等に被害を与えるチャバネアオカメムシ〕

チャバネアオカメムシは、日本に広く分布する農林害虫。果樹園に飛んできて果実の汁を吸って傷つけ、時に大発生して大きな被害を及ぼす。カンキツ類、リンゴ、ナシ、カキなど、多岐にわたる果樹が被害の対象となり、スギ・ヒノキ等の針葉樹の種子害虫でもある。

山林で繁殖し、不定期かつ断続的に果樹園に飛来するため、防除のために果樹園では発生予察に基づいて殺虫剤が散布される。この殺虫剤の使用を低減するため、予察の精度を高めたり、天敵の利用を検討する等の研究が行われている。さらに、赤色防虫ネットや超音波防除装置等の資材や装置等を用いた物理的な防除技術についても、開発のニーズが高まっている。

また、多くの昆虫が、コミュニケーションの手段として、振動の情報を用いていることが明らかになってきており、人為的な振動によって、害虫の行動に影響を及ぼして防除するという方法が、ブドウ害虫のヨコバイやトマト害虫のコナジラミで提案されるようになってきた。

そこで今回の研究では、果樹園に飛来するチャバネアオカメムシに対して、振動による防除の可能性が検討された。

 

〔カメムシに振動を与えてその反応を観察〕

研究では、まず、小規模の実験として、実験室内で市販の小型加振機を用いて成虫に振動(周波数は50~1000Hz)を与えた。その結果、振動に対してカメムシは「停止する(立ち止まる)」、「伏せる(腰を曲げ姿勢を低くする)」、「歩き出す」、「足踏みする(前足を交互に上げ下げする)」という反応を示した。

このうち、停止する、伏せるといった反応は、カメムシの行動を抑制していると考えられ、果樹被害をもたらす吸汁行動も阻害できる可能性が考えられる。

一方、歩き出すという反応からは、振動から逃げようとして木から飛び去る(追い払う)可能性が期待できる。

特に、150Hzや500Hz等の低い周波数において、カメムシは微小な振幅の振動(加速度0.02m/2s程度)に対しても反応したため、この周辺の周波数に対する感受性が高いことが分かった。

次に、もう少し大きな実験として、網室に地植えされた樹高約2mのカボス樹に、振動装置の試作機を設置。試作機には、大きな振動を発生できる超磁歪素子という素材が用いられた。試作機で100Hzの振動を与えた結果、100Hzに加えて200Hz等の整数倍につながる周波数が計測された。樹が振動すると、カボス樹上のカメムシは、室内実験の時と同様に「立ち止まる」、「歩き出す」等の反応を示した。

さらに、試作機を分岐具を介してみかんの苗木4本とつないで振動させたところ、いずれの苗木でもカメムシは反応し、複数の木を同時に振動させることができる可能性が示された。

これらの実験により、チャバネアオカメムシが振動に対して感受性を持つことが初めて解明され、振動によってカメムシの行動を制御し、果樹に飛来するカメムシを追い払う可能性が見出された。

 

〔振動によってカメムシを追い払う可能性示す〕

今回の研究成果では、振動によってカメムシを追い払う可能性が示された。振動による防除ができれば、殺虫剤の散布回数の減少が期待でき、生産者や環境への負担も少なくなり、持続的な果樹栽培に貢献できる技術になると期待されている。

また、チャバネアオカメムシは日本全国に分布し、多岐にわたる果樹を加害するため、振動を用いた防除技術の利用場面は広いと考えられる。

研究グループでは、今後、振動によるカメムシ防除技術の実用化を目指し、被害の軽減程度や振動が樹体や果実の品質等に及ぼす影響について検証を行っていくとしている。さらに、振動装置の改良も重要であることから、現在、製品化に向けた共同開発を進めている。


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