2023年5月10日 新年度は人材育成を見直す絶好の機会 介護現場で新人を伸ばす実践ノウハウ【山口宰コラム】

4月になり、みなさんの事業所でも、期待に胸を膨らませた新入職員を迎えていることと思います。人材の確保や育成が難しくなっているいま、彼らをうまく育て導くことが、事業所を持続可能にしていくことにつながります。そこで今回は、新入職員育成のコツについて考えてみたいと思います。【山口宰】

◆ OJTを機能させるために

介護現場における人材育成は、上司や先輩が実際の仕事を通して指導するOJT(On the Job Training)で行われることが一般的です。にもかかわらず、OJTがうまくいかずに苦労しているところも少なくありません。

OJTはもともと、「職業訓練の父」として知られるチャールズ・R・アレンによって、第1次世界大戦中に、造船所作業員の緊急訓練プログラムとして生み出されました。現場での仕事を通じて、業務を行ううえで必要な知識や技術などを「意図的」、「計画的」、「継続的」に指導する教育手法です。

OJTは下記の4つのステップから成ります。

(1)Show(やって見せる):いきなり最初からやらせるのではなく、実際に現場での業務を見せることでイメージを持ってもらう。

(2)Tell(説明する):単なるHow toではなく、その業務の意味や背景も含めて説明する。質問も受け付け、一方通行の説明にならないようにすることが大切。

(3)Do(やらせてみる):指導者の見守りのもと、実際に業務をやってもらう。

(4)Check(評価し、追加で指導する):実際にやってみた内容を評価して改善点を伝えるほか、説明が不十分だった点について再度教える。

「とりあえず現場に入れて仕事を覚えてもらう」のは、OJTではありません。介護の現場では、ちょっとしたミスや失敗が利用者の生命に関わる可能性もあります。ひとつひとつのケアや業務について、「なぜこれを行うのか」ということまでを含めて理解してもらい、実際にできるようになるまで何度も説明・実践・評価を繰り返すことが大切です。

 

◆ 育成計画の大切さ

このように、人材育成に大きな力を発揮するOJTですが、デメリットもあります。それは、教える側のスキルの差により習熟度に差が出てしまうこと、また、本来身につけるべき知識や技術を体系的に学ぶことが難しいということです。

このデメリットを解消するために、「育成計画」を立てることが大切になります。

入職したばかりのスタッフがまず覚えるべきことは何か。ケアの理念、介護技術、緊急時の対応、認知症ケア、記録のつけ方、上司への報告の仕方…。数え上げればキリがありません。

3か月後は、6か月後は、1年後は? チームで議論をしながら、順序立てて体系的に整理してみましょう。この作業は、自分たちの日々の業務を細分化し、優先順位や重要度などを見直すことにもつながります。

この作業をするうえで大切なのが、「MECE」(Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive:モレなくダブりなく)という概念です。当然、教えるべき肝心なことが抜けてしまっていた、ということにならないように、テーマごとに確認してみてください。

育成計画が完成しても、全員が同じペースで成長するわけではありません。新入職員ひとりひとりのペースや特性、得意なこと・苦手なことなどに合わせて、オーダーメイドの育成計画を作り上げていくことが重要です。また、定期的に評価・見直しを行えば計画はより効果的なものとなるでしょう。

 

◆ 世話係・メンター制度

介護現場の人材育成はチームで行うことが基本ですが、担当の世話係/指導係をつけることは、指導方法のバラツキを抑え、気軽に相談できる相手を持てるという点で、大きなメリットがあります。最近では仕事面の指導だけでなく、メンタル面のサポートやプライベートも含めて人生相談に乗る、「メンター制度」を導入する事業所も増えてきています。

ここでポイントとなるのは、世話係やメンターの育成です。

指導内容や指導方法に関する教育を行わず、「面倒見がよい」「性格が合いそう」といった理由だけで任命すると、世話係・メンターにとって大きな負担となってしまいます。特にメンターの場合、新入職員と一緒になって悩みすぎたり、プライベートに入り込みすぎてしまったりすることで、メンター自身がメンタルの不調を訴えたり、最悪の場合、退職につながってしまうケースもあります。

どのようなビジョンのもとに人材を育成するのか、具体的な方法論を含めて指導することにより、新入職員だけでなく、世話係やメンターに選ばれたスタッフの育成にもつながります。長期的な視点を持って、〝人を育てられるスタッフを育てる〟ことが重要です。

 

◆ 仲間をつくる

私の法人では2007年より、新入職員と前年に中途採用したスタッフを対象として、「新入職員トレーニング合宿」を実施してきました。

知識や技術を身につけることよりも、法人の理念や「チームで仕事をする」ということを理解してもらうのが目的のこの合宿。チームビルディングのためのグループワーク、頭と体を使ったトレーニング、飯盒炊さんなど、日常業務から離れて集中して学ぶ機会となっています。

最終日には、福祉に関するテーマについてチームごとにプレゼンテーションを行います。例年、夜遅くまで熱い議論が交わされたり、発表のリハーサルが行われたりしています。プレゼンテーション当日は先輩スタッフも参加し、さらに議論が深められています。

この合宿を通じてできた、施設や部署の枠を超えた仲間は、これから仕事で悩んだりした時に大きな力となるでしょう。他分野のスタッフからのアドバイスは、日常業務の中での大きなヒントになっています。

新年度がスタートしたいま、人材育成を見直す絶好のチャンスが来ています。人材育成は未来への投資です。〝これまで通り〟ではなく、ちょっとした工夫を積み重ねていくことが、5年後、10年後に大きな力となるのではないでしょうか。


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