2021年8月4日 妊婦の不安、長期化するコロナ禍で変化 気分障害や周囲からの支援が必要(東大調査)

妊娠中の女性のメンタルヘルスの悪化は、胎児の発育や産後の育児に負の影響を与えることが知られており、予防と支援の重要性が指摘されている。しかし、コロナ禍の妊婦が、どの時期にどのような内容の不安やストレスを抱えていたのかについては分かっていなかった。

東京大学大学院医学系研究科の奥原剛准教授、調律子大学院生らの研究グループは、昨年1月から初の緊急事態宣言の解除が宣言された5月25日までに日本最大のQ&AサイトであるYahoo!知恵袋に投稿された妊婦の質問1000件の内容を週単位で分析し、妊婦の不安・ストレスの内容の移り変わりを国内の動きと照合した。その結果、妊婦は流行初期には感染に関する不安を抱えていた一方、自粛期間が長期化するにつれて気分障害、周囲からのサポートに関する不安が増えていったことが明らかになった。パンデミックが長期化し感染のフェーズが変化するなかで、妊婦への支援内容も変化させることの重要性が示唆された。

 

妊婦の3割に「うつや不安」

パンデミックでは、公衆衛生の専門家は弱い立場に置かれた人々へ情報を伝えることが必要といわれている。なかでも妊婦は、流行初期には妊婦や胎児への影響が不明なことや、治療が制限されること、繰り返し病院に訪れる必要があることなどから弱い立場に置かれている。

妊娠中の強い不安やストレスは母親や児の健康に影響を与えることから、妊婦の心理的なケアも不可欠。新型コロナウイルスのパンデミックでは、うつや不安の症状が強い妊婦が30%にも上っているという報告もある。

感染症流行の各段階で人々がどのようなことを不安に思い、期待しているのかを知ることが有効なコミュニケーションと支援を行う上で求められる。新型コロナウイルス感染症の流行期間に妊婦は、感染への不安の他にも出産や育児への準備不足やサポートする人々との関係性など、妊婦特有の不安やストレスを抱えていることが報告されてきた。

しかし、長期化するパンデミックの中でそれらの不安やストレスがどのように変化していたのかは分かっていなかった。

 

パンデミック長期化で増える「サポート不足への不安」

研究は、インターネット上のQ&Aサイトの書き込みの内容分析によって、新型コロナウイルスのパンデミックの中で日本人の妊婦がどんな不安やストレスを抱え、それがどう変化したのかを明らかにし、現在、さらに将来のパンデミックで妊婦をどのようにサポートできるかを考慮するための示唆を得ることを目的として行った。

昨年1月1日から5月25日に国内最大のQ&AサイトであるYahoo!知恵袋に投稿されたすべての質問を対象に、〝コロナ 妊婦〟〝コロナ 妊娠〟〝コロナ 出産〟〝コロナ 分娩〟〝コロナ お産〟をキーワードとして検索した。妊婦自身が投稿している質問のみを解析対象とし、質問文のテキストからカテゴリーと下位コードを抽出した。各カテゴリーとコードの質問数を週単位で集計し、国内の動きと照合した。

検索キーワードでヒットした4200件の質問のうち2040件の質問が妊婦による投稿であり、重複やパンデミックでの不安とは無関係なものを除外した1000件の質問を分析対象とした。感染流行の第1波と第2波では、「自分自身の感染への不安」や「家族や友人の感染への不安」、「自分自身の外出への不安」といった感染に対する不安が第1ピークと第2ピークを形成していた。

その後、感染に対する不安に関する質問は減少し、「周囲からのサポートについての不安」や「気分障害についての不安」が増加して第3のピークを形成していた。「人間関係のストレス」は全期間で頻出していた。「家族や友人の感染への不安」や「人間関係のストレス」の多くは、「夫が飲み会に行く」など感染リスクを伴う望ましくない行動によるものであった。

調査の結果、妊婦は、新型コロナウイルス感染症の流行初期には感染への不安やストレスを表出していたが、パンデミックが長期化するにつれて気分障害や周囲からのサポートの不足に関する不安やストレスの表出が増えていったことが判明。人間関係のストレスは全期間で表出されており、研究グループでは、妊婦の周囲の人々に対するコミュニケーションも求められるとしている。


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