2021年10月22日 在宅勤務が「イクメン化」促進 仕事の生産性低下は確認されず(東大研究G)

在宅勤務が「イクメン化」を促進する―。東京大学大学院経済学研究科などの研究グループが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い増加した在宅勤務と、子育てを行う男性の因果関係を実証した。在宅勤務を行う日が週1日増えると、男性の家事・育児にかける時間が6.2%、家族と過ごす時間が5.6%それぞれ増加し、仕事よりも生活を重視するように意識が変化したと回答する割合が11.6%上昇することを明らかにした。仕事に関する生産性の低下は認められなかった。在宅勤務に関する研究の多くは女性の仕事と家庭の両立に着目しており、男性の行動・意識両面での家族との関わりへの影響は明らかになっていなかった。男性の家事・育児参加の促進は、出生率向上・少子化解消につながる重要な社会的課題。この研究成果はコロナ禍終息後のあるべき働き方について示唆を与えるものと評価される。

 

家事労働の男女間格差、世界最大

〝仕事と家庭の両立〟が現代社会の課題となるなか、柔軟な働き方の一つとして注目されているのが在宅勤務を含むテレワーク。これまでの研究では、在宅勤務の導入が働く女性の〝仕事と家庭の両立〟に役立つことが明らかにされてきた。

多くの先進国では、女性に家事労働・育児負担が集中しており、これが女性の社会進出の妨げや低出生率の原因の一つになっていると考えられている。わが国での家事労働・育児負担の男女間格差は世界最大。このため、在宅勤務が家事労働と育児の男女間格差を是正しうるのかは、日本社会にとっても注目すべき研究課題といえる。

しかしながら、男性の家族との関わり方に在宅勤務がどのような影響を与えるのか、データから実証した研究はこれまでにほとんどなかったのが現状。在宅勤務を行っている人が積極的に家事・育児に参加しているという相関関係がわかったとしても、在宅勤務によって家事・育児参加が増えたという因果関係があると必ずしも結論づけられないことが、その理由。もともと家族志向の強い人ほど在宅勤務を選びがちであるだけのことかもしれないが、その場合、在宅勤務が家事・育児参加を促したとはいえない。

この研究では、こうした問題を解決するために、計量経済学の手法である一階差分モデルと操作変数法を組み合わせることで、在宅勤務が男性の家事・育児参加に与えた因果効果を推定した。データには、内閣府が実施した「第2回新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」から得られた個票を用いている。

 

コロナ禍終息後の働き方を示唆

推定の結果、在宅勤務を行う日が週に1日増加すると、子どもを持つ既婚男性が家事にかける時間が6.2%増加し、家事・育児に関して夫の役割が増加したと回答する割合が9.3%上昇することがわかった。

また、家族と過ごす時間は5.6%増加し、(仕事よりも)生活を重視するように意識が変化したと回答する割合は11.6%上昇した。

これらの結果は、在宅勤務が行動・意識の両面で男性の家族志向を高めることを示唆する。他方、仕事に関する質問項目についても同様の分析を行ったが、調査での回答者の申告に基づく限り、生産性に対して在宅勤務が悪影響を与えるという結果は得られなかった。

この研究は、少なくともテレワークできる業務の割合が多い男性について、平均的には、在宅勤務が仕事の生産性を低下させることなく家族志向を高めることを示した。在宅勤務の推進が家庭内労働の男女平等を促し、究極的には出生率の向上につなげられることが期待される。テレワークできる業務の少ない男性にもこの結果が当てはまるかどうかは研究の範疇を超えるものの、コロナ禍終息後のあるべき働き方についても示唆を与える発見だと考えられる。


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