2021年10月12日 問題意識と対策行動にギャップ 高山域への外来植物持ち込みの抑止は無行動が障壁

東京農工大学大学院農学府自然環境保全学専攻の西澤 文華氏(2020年3月修士課程修了)、同大学院農学研究院自然環境部門の赤坂 宗光准教授、国立環境研究所の久保 雄広主任研究員、森林研究・整備機構森林総合研究所の小山 明日香主任研究員の研究グループは、中部山岳国立公園・立山駅構内での訪問者を対象とした調査を行い、高山帯・亜高山帯への訪問者の約7.8%の靴に外来植物のタネが付着していたことを明らかにした。また、外来植物の持ち込みを抑止するうえでの障壁が、持ち込まれた外来植物が引き起こし得る問題などに対する訪問者の知識や問題意識の欠如ではなく、問題意識が入山前の靴の清掃という実際の対策行動に繋がっていないことにあることを明らかにした。この成果により、今後、高山帯・亜高山帯への外来植物の持ち込みを抑止する対策が進むことが期待される。

 

立山駅構内で訪問者を調査

外来植物は、生態系や経済活動、健康に深刻な問題を引き起こしている。この問題の究極的な対策は、外来植物の持ち込みを防止すること。外来植物の持ち込みは、多くの場合、歩行者の立ち入りを禁止することで防止できる。

歩行者は、衣類や靴にタネが付着した状態で移動することで、意図せずに外来植物を持ち込んでしまうことがあり、この意図しない持ち込みが外来植物の自然地域への主な経路の一つとなっている。また、歩行者は車両よりも自然地域の奥深くに入り込むこともできる。

これらの観点から、国立公園などの生物多様性・生態系が豊かな地域では歩行者の立ち入りを制限することが望まれる。しかし、そうした場所は登山やハイキングを含む質の高い自然体験の場でもあり、立ち入りを完全に制限することはできない。このため、利用者を受け入れつつ外来生物の侵入を防ぐ対策が必要となるが、訪問者が意図せずに持ち込んでしまうタネの量や、タネを持ち込んでいる訪問者の外来植物についての知識や問題意識の程度、有効な持ち込み防止対策として期待される訪問前の靴の清掃をしている訪問者の割合、これらの関係についての定量的な知見はこれまでほとんどなかった。

この知見の欠如を補うため、研究グループは、高山帯・亜高山帯の入り口となる中部山岳国立公園・立山駅構内で訪問者に協力してもらい、各訪問者の靴に付着する土(タネが含まれる可能性がある)を採集し、併せて各個人の外来生物の問題に対する知識や問題意識の程度、知識を形成した情報源についてアンケート調査を行った。また、採取した土サンプルを温室で撒きだし、発芽させることで含まれている生きたタネの量の見積もりを実施した。

その結果、収集した有効な344人の訪問者の土サンプルのうち、27サンプル(7.8%)に発芽可能なタネが含まれていた。発芽した44個体のうち、種同定できた6種は全て立山には本来生育していない植物だった。少なくとも、7.8%の訪問者の靴に発芽可能な外来植物のタネが付着していたことになる。

また、アンケート回答者のうち、81.4%がヒトによる外来植物のタネの移動が起きることを知っていると回答し、93.3%が外来生物の侵入がもたらす影響について「よく知っている」あるいは「やや知っている」と回答していた。同様に、外来生物の侵入がもたらす影響が「とても問題である」または「やや問題である」と答えた割合は93.3%だった。一方、実際に環境を守る目的で、前回靴を使用してから今回の訪問までに靴を清掃したと回答した割合は3.8%だった。

こうした結果を統計分析すると、外来生物に関わる知識を持つ訪問者ほど、外来生物が引き起こす問題に問題意識を持つ傾向が確認されたものの、高い問題意識は必ずしも対策行動(環境を守るために訪問前に靴を清掃すること)を促進するものでないことが分かった。

また、訪問前に靴を清掃したヒトから採取した土サンプルから発芽した数は、靴を清掃しなかったヒトの約半分(52.8%)だった。

これらの結果から、外来植物がもたらす被害についての問題意識を持っていても、実際にその抑止につながる行動をとっていないことが、外来植物の持ち込みを抑止するうえでの障壁となっていることが分かった。

また、外来植物の侵入がもたらす影響についての知識を、多くの回答者がテレビを通じて得ていたことから、テレビを介した情報提供だけでは、この問題意識と実際の行動のズレを解消することが難しいと考えられた。

さらに、登山靴・トレッキングシューズを履いていた訪問者のサンプルからは、それ以外の靴(スニーカー等)を履いていたヒトの土サンプルよりも発芽数が多く、統計学的な補正を行うと2~3倍になると推定された。複雑な形状の底面(ソール)の靴を履いて自然地域を訪れるときは、特に丁寧に靴を清掃することが望まれる。

 

効果的な抑止策の検討につなげる

タネが付着しているヒトの割合は7.8%と必ずしも多くないように見えるが、立山の場合、年間約93万人(2017年実績)が訪問しており、決して少なくない数のタネが高山帯・亜高山帯に持ち込まれていることが推測される。

また、立山に限らず、国立公園を始めとした人気のある山岳地域は多くの訪問者を抱えており、他の地域での実態の調査と併せ、問題意識と実際の行動のギャップの存在を踏まえた、効果的な抑止策を検討し実施することで、高山域・亜高山域への外来種の持ち込みの抑止が効果的に進むことが期待される。


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