2021年8月25日 五輪開催国の運動実践率に変化なし 東大講師が分析 行動につなげる戦略的取組が必要

8月8日に閉幕した東京オリンピック2020は、日本人選手の活躍だけでなく、スポーツのすばらしさをあらためて感じることができた。一方で、近年の五輪開催国では、開催前後で国民のスポーツ実践率に大きな変化がみられなかったことが、東京大学大学院医学系研究科の鎌田真光講師らの分析で明らかとなった。

オリンピックの開催・招致にあたっては、大会後に残すポジティブな影響(レガシー)として、スポーツ、教育、都市、環境面など、さまざまな側面が言及される。レガシーの一つに、スポーツの祭典として、国民の身体活動とスポーツの実践を促進し、健康増進につながるといったことが含まれる。しかし、こうしたレガシーが実際に実現されたかということは、これまで十分に検証されていなかった。

今回、鎌田講師を含む豪州、日本、米国、ブラジル、英国、アイルランドの研究者で構成する国際共同研究チームは、まず過去約30年分・15大会のオリンピック開催地立候補ファイルや大会関連の公式文書を調べた。その結果、2012年ロンドン大会以降に、国民や開催都市住民のスポーツ実践や身体活動を促進することが、期待されるレガシーとして明言されるようになったことが示された。

また、実際にオリンピックの開催前後で国民のスポーツ実践率や身体活動量が高まったかを検証するために、各開催国・都市での全国(都市)調査データを2次利用して調べた。大会前後で計3時点以上のデータが得られた計8大会について、スポーツ実践率、身体活動実践率(運動習慣を持つ者の割合やガイドライン推奨量を満たす者の割合)、歩数のいずれかの指標について分析した。

分析したのは1996年アトランタ大会、1998年長野、2000年シドニー、2002年ソルトレークシティ、2008年北京、2010年バンクーバー、2012年ロンドン大会、2016年リオデジャネイロの各大会。

分析の結果、ほとんどの国・都市で、オリンピックの開催前後で国民・住民のスポーツ実践率や身体活動量が変化していなかったことがわかった。例外として、1998年長野大会前後のスポーツ実践率と2008年北京大会前後の身体活動実践率にのみ、増加の傾向がみられた。

ただし、長野大会(冬季)では、スキー等のウインター・スポーツに限定すると増加の傾向はみられなかったため、スポーツ全般での実践率の増加は、大会とは別の要因の影響が大きいと考えられる。また、北京大会は2000年、2005年、2014年の3時点のみのデータに基づいており、検証データが不十分であった可能性がある。

 

運動への関心は高まる

別の角度からの分析として、2012年ロンドン大会を対象として、Googleトレンドを用いてイギリス国内での人々のインターネット検索の傾向を分析。その結果、「オリンピック」に関する検索が大会前から大会期間中に増加し、その後、1年ほどで急激に減少する一方、「運動」に関する検索も大会前から大会後にかけて増え、この増加はその後数年間持続していたことが分かった。これらの結果から、国民の運動に対する〝関心〟は高まった可能性があると考えられる。

意識だけでなく、国民のスポーツ実践や身体活動の普及といった〝行動〟の変容につながるレガシーを実現するためには、大会前から大会期間中、さらに大会後に至るまで、大会組織委員会、国際オリンピック委員会(IOC)、開催国のオリンピック委員会(JOC等)、国・地域の行政機関、そしてスポンサー企業などが一体となって戦略的に取り組む必要があると考えられる。

また、こうした普及の取組に加えて、今後は、国民のスポーツや身体活動の実践を継続的に評価し、レガシーの検証を積極的に進めていく必要もあることが浮き彫りとなった。


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