2023年8月17日 ヒナアズキの耐塩性機構を解明 耐塩性作物の開発への適用に期待

農研機構、量子科学技術研究開発機構(QST)、筑波大学、東京大学、理化学研究所らの研究グループは、アズキの近縁種であるヒナアズキが、葉に特殊なデンプンを蓄積し、ナトリウムを吸着させ隔離することで無害化できることを明らかにした。新たに解明したこの耐塩性機構は、一般的な耐塩性植物が持つ葉へのナトリウム流入抑制とは異なることから、今後の耐塩性作物の開発への適用が期待される。

 

[塩害に強い植物がもつ耐塩性機能の解明が不可欠]

世界に約3億ヘクタールある灌漑農地の約半分は塩類集積による塩害の影響を受けており、塩害に極めて弱いイネやダイズなど主要な作物の栽培が困難になっている。また、乾燥地での灌漑農業が拡大した結果、湖沼や地下水などの淡水資源が急速に枯渇に向かっており、乾燥地における塩害のリスクはより一層高まっている。こうした状況に対して、塩水でも栽培可能な塩害に強い作物の開発が求められており、塩害に強い植物がもつ耐塩性機能を明らかにすることが不可欠となっている。

 

[ヒナアズキの特殊な耐塩性機構を詳細に調査]

農研機構では、多様な遺伝資源をジーンバンク事業で収集・保存し、有用な特徴を調べている。特に、アズキの近縁種は多様性の宝庫であり、厳しい環境に適応した種や系統が多数存在する。これまでも、アズキの近縁種が持つ独自の耐塩性機構に注目した研究を行っており、成果をあげている。

今回は、塩害に強いアズキ近縁種のうち、海岸の波打ち際など海水を直接浴びる環境で生育できるヒナアズキに着目。ほとんどの植物では、葉に過剰なナトリウムが流入すると致命的な傷害を受けるが、ヒナアズキは葉にナトリウムを蓄積しながら、目立った傷害なしに生育できることが分かっている。研究グループは、QST、東京大学、筑波大学が持つ細胞内の元素を可視化する技術と、理化学研究所の電子顕微鏡技術を用いて、ヒナアズキの特殊な耐塩性機構を詳細に調査した。

 

[ヒナアズキのデンプン顆粒はナトリウムを吸着する特殊な能力を持つ]

研究では、まず、葉にナトリウムを蓄積するヒナアズキと塩害に弱いアズキについて、葉の細胞の特徴を、理化学研究所が有する走査型電子顕微鏡で観察した。その結果、ヒナアズキでは、葉の細胞内の葉緑体にデンプン顆粒が形成されていたが、アズキではほとんど見出されなかった。

続いて、QST、筑波大学でヒナアズキの葉を24時間遮光し、デンプン顆粒が失われた状態で放射性ナトリウムを吸収させて元素分布を調査。遮光した葉のナトリウムの量は、遮光しなかった葉に比べて顕著に減少し、デンプン顆粒形成とナトリウム蓄積との間に関係があることが示された。

最後に、100mMの塩水で数日間栽培したヒナアズキの葉の細胞内のナトリウムの分布を東京大学でSEM‐EDXという手法を使って画像化した結果、デンプン顆粒の周囲にナトリウムが高密度で存在することが明らかとなり、ナトリウムが吸着されていると考えられた。

こうした結果から、①ヒナアズキの葉の葉緑体には多くのデンプン顆粒が形成されること、②デンプン顆粒の形成を妨げると、葉へのナトリウム流入が顕著に減少すること、③ナトリウムは葉緑体に形成されたデンプン顆粒の周囲に高密度で分布し、デンプン顆粒に吸着されていると考えられることが明らかとなった。

さらに、葉に多量のデンプン顆粒を形成する別種の植物ではデンプン顆粒にナトリウムは吸着されなかった。このことから、ヒナアズキのデンプン顆粒はナトリウムを吸着する特殊な能力を持ち、ナトリウムによる害から葉を守っていることが示唆された。

 

[複数の耐塩性機構を集積して耐塩性の極めて強い作物育種へ適用]

現在、農研機構では、塩害に強いアズキ近縁種のゲノム解析を進めており、各種の特異な耐塩性機構遺伝子の単離を目指している。そうした遺伝子を明らかにし、複数の耐塩性機構を集積することで、耐塩性の極めて強い作物育種への応用が可能となることが期待される。


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