2021年4月13日 ドローン用いた水稲生育量の調査法開発 DNA分析と組み合わせ関連遺伝子を特定

農研機構は、水田において多様な水稲の生育初期の生育量の違いをドローンの空撮画像から数値化し、評価する手法を開発した。この調査法では、10aの水田で栽培する400種類の稲に対して、ドローンによる10分間程度の撮影で調査に十分な枚数の画像が得られる。従来の目視による調査法と比べ、1/20の作業時間でより客観的な結果を得ることができる。

また、今回の研究では、目的に合わせて交配した水稲の集団約3000個体について、開発した生育量調査とDNA分析を組み合わせて行うことにより、生育量に関わる遺伝子を染色体上の4ヵ所に特定した。更なる解析により、生育量を高める遺伝子を持つ稲ではバイオマスが増え、一部の遺伝子では子実(玄米)収量も増加することが分かった。特定された遺伝子は、今後、生産性の高い日本型の水稲品種のDNAマーカー選抜に利用され、品種改良の効率化に役立つと期待される。

 

【ドローンの農業での活用に期待】

無人航空機の一つであるドローンは、遠隔操作や自動航行が可能で様々なセンサーを搭載できるため、薬や荷物の宅配、大型工場内での危険個所のモニタリングなど、幅広い用途で利用されている。

農業分野でも、水田全体の作物の生育量や葉色の違いに基づく生育診断、農薬散布などへの利用が試みられている。数千から数万と多数の個体について個別に特性を調べる必要がある品種育成では、生育量や形態の違いを効率的かつ正確に評価する方法が求められており、ドローンの活用による技術改善が期待されている。

 

【目視での調査にかかる多大な労力と時間が課題】

水稲の生産性向上はわが国の農業における課題であり、生産性の高い水稲品種の育成が求められている。

作物の生産性に関わる生育量は、品種改良における重要な特性の一つだが、目視での調査では経験の度合いに左右され客観的なデータを得ることが難しく、多数の個体の調査には多大な労力と時間が必要となる。

こうした課題に対し、ドローンを用いることで、水田に入らず上空からの撮影によって生育量を短時間で調べられ、画像から一律の基準で生育量を数値化できるため、生育量に着目した品種改良を大幅に効率化できると考えられる。

しかし、生育量は施肥量や気温など環境の影響を受けやすく、栽培場所や年によって異なるため、仮に正確な値を得られたとしても、その差は必ずしも遺伝的な能力を反映したものではない。このため、品種改良を効率化するためには、生育量の違いを正確に把握した上で、これに関係する遺伝子を見つける必要がある。

最近の水稲品種の改良では、「コシヒカリ」などの日本型品種とインド型品種とを掛け合わせ、インド型品種の持つ有用な遺伝子を日本型稲に取り入れることも多くなっている。農研機構では、各々4種類の日本型品種とインド型品種、合計8品種をそれぞれ交配して集団を作出し、改良に役立つ遺伝子を効率的に探索する方法を確立している。こうした中、今回、ドローンの空撮画像を用いてこの集団を構成する多数の個体の生育量を調査することで、生育量に関わる遺伝子を探索した。

 

【水田に一切入らず短時間で水稲の生育量を調査可能】

研究では、ドローンを10~25mの異なる高度で運航し、搭載したデジタルカラーカメラで初期成育期の水稲を撮影した画像を比較したところ、高度10mにおいて植物部分を最も明瞭に認識でき、生育量の調査に適していることが分かった。

高度10mで約10分間の撮影によって得られる約200枚の画像から、位置情報を用いて10aの水田全体を一枚の画像としてつなぎ合わせた。次に、その画像の中から水稲の種類ごとに画像を分け、各々の生育量を数値化。一律の基準で画像からの数値化を行うため、客観性の高いデータを得ることができる。これを水田の中を歩きながら目視で調査する場合、10aの水田で栽培する400種類の稲を調査する場合3時間以上かかるが、ドローンを用いるとその作業時間を約20分の1にできる。また、目視の場合、植物を見る角度や高さは調査ごとに異なり、経験の度合いも計測値に影響する可能性がある。この技術を用いることで、水田に入ることなく、水稲の生育量を短時間で正確に調査することができる。

 

【生育量に関わる4ヵ所の遺伝子位置を特定】

作出した集団(植物体の大きさなどの特性が異なる各々4種類の日本型品種とインド型品種、合計8品種それぞれの交配に由来する集団)の約3000個体について、生育量の調査を行い、DNA分析データと組み合わせ、生育量との関連のある遺伝子を特定した。その結果、生育量に関わる遺伝子は、第1、第4、第7、第9染色体上に1ヵ所ずつ、合計4ヵ所にあることがわかった。第1、第4、第9染色体ではインド型品種の持つ遺伝子が、第7染色体上では日本型品種のもつ遺伝子が生育量を増加させていた。さらに、生育量と他の特性との関係を調べたところ、生育量を高める遺伝子を持つ稲ではバイオマスが増え、一部の遺伝子では子実収量を増加させることがわかった。

 

【生産性の高い水稲品種の育成の加速に期待】

今回の研究では、ドローン空撮画像を用いて、水稲の生育量を効率的に調査する方法が確立された。これを活用して4ヵ所に見出された生育量に関わる遺伝子について、DNAマーカーを用いた選抜を行うことで、今後、生産性の高い水稲品種の育成が加速されると期待される。

また、この技術は栽培管理にも利用でき、デジタルカラーカメラだけでなく、NDVI(植生指数。植物の生育量や葉色などを意味する)や葉温(葉の表面の温度。植物が光合成を行う際には、二酸化炭素を取り込むために気孔が開くことで水が蒸散し、その気化熱で葉の表面温度が下がることから、葉温は光合成量を推定する指標の一つとされる)を計測できるセンサーなども活用することで、作物生育量の多面的な調査が可能となる。これにより、作物の生産性をさらに高める技術の開発につながることが期待される。


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