2024年4月1日 コメ中無機ヒ素の簡易・安価な定量法をアップデート 標準作業手順書を公開、自主検査に利用可能

農研機構は、コメ(精米・玄米)中の無機ヒ素を従来の機器分析に比べて簡易、安価に定量するための標準作業手順書をウェブサイトに公開した。コメの生産、加工、輸出に関わる事業者による自主検査に利用できるほか、農業試験研究機関等によるコメ中無機ヒ素を低減する栽培技術や品種、資材の効果の検証に利用することができる。

無機ヒ素は自然環境中に広く存在し、その毒性に関しても知られている。コメ(精米・玄米)に含まれる無機ヒ素に関しては、その含量について国際機関や諸外国が基準値を設定している。

コメ中無機ヒ素の一般的な分析法では、液体クロマトグラフを組み合わせた誘導結合プラズマ質量分析装置、または水素化物発生装置と組み合わせた誘導結合プラズマ発光分光分析装置や原子吸光分析装置など高価な機器が必要であり、分析にも十分な知識・技能・経験を有する必要があるため、実施できる機関も限られている。このため、簡易かつ安価に分析できる方法が求められている。

こうした中、農研機構では、2017年度で終了した農林水産省委託プロジェクト研究「食品の安全性と動物衛生の向上のためのプロジェクト」の成果の一部を利用し、農研機構でコメ中無機ヒ素の簡易分析法の開発を行い、技術マニュアルとして2019年に公開している。

その後、ワークショップの開催や、技術講習生等に実際に分析する機会を設けるなど普及を進めると同時に、利用者からの要望を反映させ、精度の向上や分析時間の短縮等の改善を行っており、今回、より分かりやすい詳細な標準作業手順書をとりまとめて公表した。

 

手順書の構成

手順書は、大きく、①抽出、②検出、③定量の3つの手順で構成されている。

分析精度は「食品中の金属に関する試験法の妥当性確認ガイドライン」で要求される精確さの目標値を満たしている。現時点では、コメ中無機ヒ素は国内基準が無く、国内の公定法も存在していないが、一定の基準を満たすため、このガイドラインを参考としている。機器分析に比べ、分析費用は5分の1、分析時間は半分以下となる。

 

各手順のポイント

1.抽出

粉末状にしたコメから無機ヒ素を加熱抽出する際に、過酸化水素水溶液を使うことで無機ヒ素検出を妨害する硫化物イオンを酸化することにより、その影響を抑制する。

2.検出

試験管内で抽出液中の無機ヒ素を塩酸酸性下で亜鉛により還元し、発生したガス状の無機ヒ素を試験紙に塗布した試薬と反応させると、無機ヒ素の濃度に応じて試験紙が無色から黄褐色に変化する。この際、還元助剤を加える工夫により、効率よくガス状無機ヒ素を生成できる。

また、試験紙に塗布する試薬には、水銀化合物に対して代替品の使用が求められていることから、利用事例の多い臭化水銀に代えて硝酸銀を使用している。

3.定量

数千万円以上する測定機器を使わずに、フラットベッドスキャナー(家庭用の安価な機種で対応可)で試験紙の色の濃さを読み取り、手順書に付随する色見本から作成した検量線によりコメ中無機ヒ素濃度を求める。

このため、従来法で検量線作成の基準となる標準物質として使われている毒性の高い無機ヒ素試薬を使用しない。

 

想定される利用場面

農林水産省や農研機構のウェブサイトでは、「コメ中ヒ素の低減対策の確立に向けた手引き」や「コメのヒ素低減のための栽培管理技術導入マニュアル~コメの収量・品質への影響を抑えつつ、ヒ素を低減するために~(第2版)」が公開されており、栽培に際しての水管理や資材によるコメ中無機ヒ素の低減対策が紹介されている。

これらの対策を現場で実証していくにあたり、効果の把握を手順書において行うことができる。また、当該手引きにない現場独自の工夫の検証や実態把握にも利用できる。

さらに、輸出重点品目のコメの輸出に際して、早い段階で自主検査により無機ヒ素レベルを把握しておくことで、発生し得る経済的損失を予防することができる。


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