「どこへ行くのよ」「知らぬ土地だよ」・・・ご存知「矢切りの渡し」の歌詞である。江戸川の渡し舟で駆け落ちする男女、不安の余りに問いかけた行き先をスマホ時代ならどう答えただろうか。そんな空想をしたのは、渡し舟ならぬ日本一の清流といわれる四万十川の遊覧船の中だった。国内で唯一旅行したことのなかった四国、その一周の旅を実現した。その際、威力を発揮したのがスマホの位置情報である。昨年10月中旬、H2Aロケット36号機の打ち上げから約28分後に準天頂軌道に投入された「みちびき4号」。わが国の全地球測位衛星は4基体制となった。3号基は静止軌道で、1、2、4号基は準天頂軌道で地球を周回している。いよいよ4月から本格的なサ-ビスを開始する。
国別の測位衛星(愛称)の運用基数は、米国(GPS)30基、欧州(ガリレオ)17基、ロシア(グロナス)26基、中国(北斗)23基、一帯一路構想で35基まで増強、インド(NavIC)7基である。インドはかって米国のGPS情報の提供を申し入れたが拒否されたことから自前の衛星を有するようになったそうだ。各国の運用基数には及ばないが、わが国の測位精度の面では、米国・欧州・ロシア・中国などがメ-トル単位から脱してないのに対して、米国のGPSと併用した時、誤差が6センチ程度と世界のトップレベルにある。
ところで日本版GPS構想は、90年代に官民共同事業で開始したが、採算面での見通しが立たないことから一時期事業を縮小した。国の事業として仕切り直し、政府は2023年度をメドに7基体制まで衛星を増強する方針である。内閣府によれば、「みちびき」の受信機を載せた小型バスの実験走行を沖縄県宜野湾市と北中城村を結ぶ往復約20kmの国道で手掛けており、2020年の東京オリンピックに合わせて実用化を目指している。また、民間の「みちびき」関連企業は、国内のみならず、労働人口の減少が著しいタイをはじめ東南アジア諸国やオ-ストラリアの農業や建設業界に売り込み中である。
さて、全地球測位衛星「みちびき」の開発・打ち上げに1基あたり約300億円といわれ、その設計寿命は10年である。2010年に打ち上げた1号基の耐用年数は2020年に終わる。持続的な運用のためには、今年度から15年間に約1200億円の運用費と後継機の打ち上げ費用を計上している。多額の投資費用に見合う需要開拓が今後の課題である。だが、「みちびき」には底知れぬ潜在能力を秘めているように思えてならない。今日も来日した外国人観光客が、スマホの位置情報を頼りに、地元の人さえ気付かなかったスポットでインスタ映えする画像を発信していることだろう。