昨年11月初旬にトランプ大統領は、連邦準備理事会(FRB)の次期議長に穏健派のジェロム・パウエル氏(64歳)を指名した。同氏はタカ派でもハト派でもなく、フクロウ派という。森の賢者フクロウは褒め言葉で、インフレの恐れあれば速やかに利上げの決断ができる人物と評価されている。先週23日に上院本会議で承認され、来月3日に任期切れのイエレン議長の後任として第16代議長に就任する。これまでの議長は、ポルガ-、グリ-ンスパン、バ-ナンキ、イエレンと著名なエコノミスト・経済学者で40年間続いていたが、今回はウォ-ル街出身の弁護士という経歴の人材を起用した。人事面でトランプ色を滲ませた交代とも云える。
ところで昨年6月末の議長講演で、イエレン氏が「次の金融危機は我々の生きている間(Our Life Time)には起こらない」との発言して話題を呼んだ。彼女は第2次世界大戦後の1946年8月生まれで、72歳になる。トランプ大統領と同じ齢だ。米国女性の平均寿命はおよそ81歳。ということは、あと10年程度は平穏ということになる。また、トランプ大統領に辞表を提出した際も、「10年前に比べ金融システムは強固になった」と強調した。議長交代後、FRBの理事としての任期を残すが、前任者のバ-ナンキ氏と同様に退任すると明言している。
そのバ-ナンキ元議長の講演タイトルで「グレ-トモデレ-ション(大いなる安定)」も有名になった言葉である。大いなる安定とは、2000年代半ばから07年までの経済状態を表現した言葉である。しかし、翌年の08年にリ-マンショックが起こった。株高や債券高が両立する「適温相場」が続いて市場全体が安定している。世界経済は、大いなる安定の当時に似ているとの指摘もある。景気拡大局面が一転して、「金融危機」だけに終わらないというリスクも潜むものである。バブルは景気拡大局面の最後に起こり易いという歴史は繰りかえされているからだ。
さて、株式相場は今年も堅調な展開が続いている。バ-ナンキ氏の言葉の行く末もあり、イエレン氏の「次の金融危機は起こらない」の言葉に反する事態の発生にも備えたいものである。世界同時株高の潮流がいつまで続くかは神様しかわからない。「好事魔多し」の心構えも必要かもしれない。市場では「いつ急落しても良いように投資家は手元にパラシュ-トを用意しておく方がいいのでは」との声もある。