5月下旬、AIアルファ碁と世界最強のプロ棋士による頂上決戦で決着がついた。アルファ碁は三番勝負に3連勝し、人間との対局から引退することを宣言した。囲碁は局面の数が「10の360乗」に達する程、最も難しいとされる知的ゲ-ムである。その実力は、AI棋士が人間の知能を上回ることを実証した訳である。強さの秘密は、人間の脳をまねた「ディ-プラ-ニング(深層学習)」と呼ばれる情報処理手法にあるという。過去に打たれた対局の棋譜をもとにして、打つ手の善し悪しを自ら学習するとともに、進化したアルファ碁は、膨大な数の自己対局の「強化学習」を重ねて、自らの勝ち負けの経験に基づいた判断力を磨いたことにある。人間の知能をAIが超える「シンギュラリティ(Singularity)」現象は、2045年頃に起きるといった予測も、囲碁の世界で一足お先に達成された。
AIの深層学習は、自動運転車の開発に欠かせない画像認識技術や、会話型AIの普及を可能にした音声認識技術の精度向上が大いに貢献している。また、アルファ碁を動かしているAI技術は汎用性が高く、難病の治療法やエネルギ-問題の解決などへの応用が期待できると言われている。
先月発表した安倍政権下での5回目の成長戦略。第4次産業革命の推進に軸足を置くことからAIやIoTの活用を重点政策として盛り込まれている。AIは定められたル-ルにおけるゲ-ムに限らず、いろいろな分野で活用される。中でもITと金融が融合したフィンテックにおけるその実力発揮はめざましい。個人融資に当たり、銀行口座の入出金履歴や携帯電話の利用料金などから信用力を点数化して短時間のうちに融資を可能にしている。また、投資判断を担うファンドマネジャ-が花形だった時代が終わり、AIの開発者が主役になる時代が近づきつつある。ただ、経験値から予測するAIの判断は、未曾有の天変地異といった過去のデ-タ不足から一方的な判断を導くことも予想され、コンピュ-タ-の高速取引と相俟って、リ-マン・ショックを超える金融危機をまねく畏れも指摘される。
さて、AIには、言語処理など不得手な分野も多いが、既にAI搭載スピ-カ-の出現など、キ-ボ-ドやタッチパネルに触れることなく音声操作をするまで言語処理が進化している。人間が設定した目標と枠組みの中で、自ら考え独創的な判断を編み出すAIには、SFまがいの暴走といった懸念もつきまとう。高度化するAIを適切に管理する仕組みの重要性も高まりそうだ。