このほど、平成28年度の食料・農業・農村白書が公表された。今回の白書では、昨年11月にとりまとめられた「農業競争力強化プログラム」と、農林業センサス等の分析結果でみたこの10年の農業の変化を特集として取り上げている。また、4章構成で食料・農業・農村の動向を整理しており、各章では注目すべき動きや話題性のある事柄をトピックスとして紹介している。
このうち、第3章「地域資源を活かした農村の振興・活性化」のトピックスでは、「中山間地域農業にもっと強い光を~地域の『宝』を活かした新たな挑戦~」と題し、平地にはない豊かな自然や優れた景観などの地域資源を活かした取り組みが取り上げられている。
中山間地域の人口は日本全体の約1割に過ぎないが、耕地面積、農業産出額、農家数でみると、それぞれで全体の約4割を占めており、「食料生産の場」として、わが国の農業の中で重要な位置を占めている。また、それだけでなく、国土の保全機能、水源のかん養機能、自然環境の保全機能、良好な景観の形成機能、文化の伝承機能、保健休養機能、地域社会の維持活性化、食料安全保障といった農業・農村の有する多面的機能の維持・発揮の面で需要な役割を担っている。
また、平地に比べて傾斜地が多い、鳥獣被害を受けやすい、高齢化の進行が平地に比べて早いなどの課題がある中山間地域だが、清らかな水、冷涼な気候など、平地にはない地域資源を有しており、これらを活かして収益力のある農業を営むことができる可能性を秘めた地域であることも注目されている。
農林水産省では、こうした中山間地域の豊かな自然や景観等の地域資源を宝として活用し、創意工夫を発揮して「収益性の高い農産物の生産・販売や6次産業化」、「観光、教育、福祉等と連携した都市農村交流、農泊等も含めたインバウンド誘致」などに取り組む意欲ある農業者を積極的に支援している。また、多面的機能の発揮のための地域活動や営農の継続等を支援するため、多面的機能支払交付金、中山間地域等直接支払交付金、環境保全型農業直接支払交付金で構成される「日本型直接支払制度」を実施している。
さらに、平成29年度からは、中山間地域の特色を活かした取り組みを後押しするため、新たに「中山間地農業ルネッサンス事業」を実施している。この取り組みでは、都道府県が作成する計画に位置付けられた取り組みに対し、各種支援事業における優先枠の設定や要件の緩和等を実施する。これにより、地域コミュニティによる農地等の地域資源の維持・継承を図りつつ、地域の特色を活かした農業の展開、都市農村交流や農村への移住・定住を促進することが狙いだ。
また、こうした中山間地域で、農地や農業用用排水施設等の農業農村整備を契機として、新たな担い手組織の設立、高収益作物の導入や6次産業化などを通じ、収益性の高い農業を展開し、「強くて豊かな農業」と「美しく活力ある農村」の実現に取り組む先導的な地域もある。農林水産省では、そうした地域の取り組みを集めて紹介する「中山間地域における優良事例集」を昨年6月にとりまとめた。今後、事例集が新たな取り組みを始めようとする他地域の参考となり、創意工夫を凝らした取り組みの拡大につながることが期待されている。