国立がん研究センターは、2016年に新たにがんと診断される人は100万人を初めて突破するとの予測結果を発表した。がんで亡くなる人は37万4000人で過去最高となる。高齢化を背景に、2030年頃まで新たながん患者は増える見通しで、早急な対策が求められる。
今年、新たにがんと診断された101万200人は、昨年より約2万8000人増。男性は57万6100人、女性は43万4100人。部位別では、大腸,胃、肺、前立腺、乳房の順である。死亡者数37万4000人は、昨年より約3000人増。部位別では肺、胃、膵臓、肝臓の順である。今後、胃が減り、大腸と肺が増え続ける見通しだ。
幕内優勝31回、「ウルフ」の愛称で圧倒的な人気を誇り、国民栄誉賞も受賞した元横綱・千代の富士の九重親方は、毎年誕生日にがん検診を受けていたところ、膵臓がんが見つかった。早期発見で外科手術により病巣を取り除くことはできた。手術後の抗がん剤治療を勧められたが、親方はこれを拒否したそうだ。抗がん剤を使用しないで治療する方法の「四次元ピンポイント照射療法」を選択した。親方がこの治療法を選択した理由は、「少しでも元気な状態で生きて、相撲界のために後進を育てたい」というものだった。抗がん剤治療の副作用により体力気力の減衰を選択しなかった。まさに横綱引退会見時の発言を彷彿させる不屈の闘魂でがんと闘う覚悟であったのであろう。しかし、7月末日に都内の病院で61歳の若さで亡くなった。
さて、年間40万人近くのがん患者が亡くなる中、がん患者の患部において効き目の強い薬を生成して、治療効果を高める研究が始まっている。強力な薬をそのまま体内に入れると正常な細胞を傷つけかねない。これまでの発想を転換して、直径が1万分の1ミリメートル以下のカプセルを血管から患部に送り込み、カプセル内のたんぱく質の合成で効き目の強い薬を作り出して副作用を減らす新技術である。まさにがん治療薬を生産する「人体製薬工場」といったものである。思い出されるのは、ミクロ化した潜航艇に乗り込んだ医療チームが患者の体内に潜航して治療するアメリカのSF映画「ミクロの決死圏」である。半世紀以上前の空想的な発想が現実化しつつある。5年以内に動物実験の成果を人への臨床研究に移行する計画とのことで、新技術による治療薬が、がん患者の光明となる日が一日も早く来ることを願って止まない。