安倍首相は2月の月末記者会見で「中国国家主席の訪日は10年に一度で、十分な成果をあげる必要がある」と述べた。ただ、世界中で新型肺炎ウイルスが感染拡大する中、予定していた4月の国賓としての訪日は延期。秋以降になるとの見方が強まっている。中国政府は感染拡大を理由に訪日を先延ばせば、新型肺炎の対応遅れを認めたことになる。一方訪日すれば収束しない新型肺炎より外交優先の批判も必然で、その決断を苦慮していたようだ。
中国には、西暦末尾「9」の付く年の厄災ジンクスがある。昨年12月にWHOが命名した「COVID19」に見るとおり、2019年生まれのコロナウイルスは、この経験則が的中したと言えよう。新型肺炎に警鐘を鳴らして処分を受けた李文亮医師が、2月7日に死去した。それをきっかけに習指導部への反発が拡大。2011年の東日本大震災直後、俳人長谷川櫂氏が和歌に託した「かかる時 かかる首相をいただきて かかる目に遭う日本の不幸」を思い出す。まさに首相を主席に、日本を中国に置き換えても通用する思いだ。
ところで日経QUICKニュース社が設立25周年を記念して、25年後の2045年に起こればサプライズとなる「びっくり予想」を発表。その中に「一党独裁の体制が崩壊して、資本主義寄りの南中国と共産主義寄りの北中国に分裂する」があった。かつてチェルノブイリの事故が発端となって、その5年後に旧ソ連が分裂した。歴史の繰り返しを連想する予想なのだろうが、コロナショックで「世界の工場」としての役割が終焉する事態となれば、共産党独裁政権の存続が危ぶまれることもなしとはしない。
さて、政界だけでなく、経済界や教育界などに影響を及ぼす新型肺炎コロナ。国内外の様々なイベントが無観客や中止、延期に追い込まれている。インフルエンザならば夏までに消えるが、コロナウイルスの収束如何では東京オリンピック・パラリンピックの開催も危ぶまれそうだ。同時にその影響が市場の混乱に象徴される。先月中旬に米中貿易協議の合意で2万9551ドルの史上最高値を更新したNYダウだが、新型コロナ感染患者の増大に反比例するかのように2万ドル割れまで急降下。トランプ政権発足後の上昇幅が帳消しとなった。また、NYダウの鏡に例えられる日経平均も3年4カ月前の水準1万6千円台まで下落した。当面、新型コロナが収束しない限り市場の下落・反発の乱高下は続きそうだ。今や世界経済のリスク要因となったコロナウイルスが、金融の世界で使われる専門用語の「存在しないはずの黒い白鳥(ブラックスワン)や、いつもは静かなのに暴れだすと止められない灰色のサイ(グレーリノ)」に置き換えられつつある。最後に蛇足ながら筆者も一首「招かざる ブラックスワン グリーンリノ コロナショックに 怯える市場」