江戸時代の知識人・松浦静山は「勝ちに不思議な勝ちあり、負けに不思議な負けなし」といった。スポーツにおける勝負の世界に当てはまるような気がしてならないのだが。プロ野球のペナントレースでリーグ制覇を逃しても、クライマックス(CS)制度があるが故、「敗者」が「勝者」になる可能性を残す。今年のソフトバンク(SB)は6年連続でファイナルステージに進出し、昨年同様リーグ制覇した西武を倒して2年連続の下克上を完結した。日本シリーズでは巨人に4戦全勝でスイープし、令和初の日本一に輝いた。今月24日福岡市内での日本一パレードは3年連続、しかも球団創設30周年の節目とあって、沿道に40万人超えのファンが見込まれるという。博多の街は大いに盛り上がるであろう。セ全球団を打ち負かす記録まで達成したSB、まさに常勝軍団には「勝ちに不思議な勝ちなし」といえる。
CS・日本シリーズを通じて、勝負に徹した工藤公康監督の鬼采配である。起用する選手をしっかり見極め、今現在の選手の状態を重視。主力選手に対しても容赦ない起用で戦力のフル活用に心がけ、先発選手、代打・代走そして投手交代と総てにわたりズバズバと的中させた。もしも監督の勝負勘がハズレていたならば、監督采配に批難集中したことであろう。改めて監督の勝負勘の凄さを実感させられたシリーズであった。
ところで、不思議な勝ちには、昨年のサッカーWカップで、「負けて勝ち残る」賭けに出た西野監督のポーランド戦の采配。これに対するジャ-ナリストのコメントに賛否両論、まさにバッシングと賞讃に揺れる評価は紙一重だったことを思い出す。これこそが勝ちに不思議な勝ち方だったかもしれない。
さて、日本球界における元祖ID野球の野村克也氏は、「人が絶対に勝てないものは時代と年齢」という。本人はボロボロになるまで現役にこだわる野球人生であった。「生涯一捕手」を標榜して、SBやダイエーの前身だった南海の監督兼捕手を解任された後もロッテ・西武と渡り歩いて現役を続けた。一方、工藤監督は29年の現役時代に勝利投手として224勝あげた。この間、西武・ダイエー・巨人・横浜・西武と渡り歩いている。「私の野球人生は後悔ばかりだった」と語る中で、限りなくゲームを省察したデータを記録に残したそうである。毎年日本プロ野球に最も貢献のあった競技者に授与される「正力松太郎賞」に、今年は2年連続で工藤監督が選ばれた。この偉業は偏に監督の野球への取組み姿勢が評価されたと思えてならない。蛇足ではあるが、今年のシーズンオフに阪神の鳥谷内野手、中日の松阪投手、楽天の嶋捕手らが戦力外として自由契約選手となっている。残り少ない野球人生で年齢に負けることなく現役にこだわる姿にエールを送りたい。