厚生労働省は31日、認知症の高齢者を地域で支えるための施策を調整する関係省庁の連絡会議を開いた。
会合では、徘徊中の高齢者が列車にはねられて亡くなった事故の最高裁判決を受けて、認知症が原因となったトラブルなどの実態把握を進めることに決めた。近くワーキンググループを設置する。当事者を救う対策を立案するため、検討に必要な材料を集めていくという。公的な救済システムを構築することの是非も議論する。
ワーキンググループでは、認知症の症状が発端となったこれまでの事件や事故について、幅広く情報を収集していく。具体的には、国土交通省が鉄道事故、法務省が裁判例、厚労省が小売店の問題などを調べる。このほか、警察庁は交通事故をきっかけに免許を取り消したケース、金融庁は民間保険の実績などを詳しく調査。有識者からも意見を募り、まとめて連絡会議に報告する。老健局の「認知症施策推進室」の担当者は、「できるだけ早く始めたい」と話した。
塩崎恭久厚労相はこの日の会合で、「社会全体が認知症とどう向き合っていくのか、どう備えていくのかという視点が重要」と説明。「認知症の人にやさしい街づくり、国づくりを関係省庁と連携して進めていく」と語った。
認知症の男性が線路に入って死亡した2007年の列車事故をめぐっては、JR東海が家族に約720万円の損害賠償を求める裁判を起こした。最高裁は今年3月、家族に監督義務があるかどうかは個々の事情を踏まえて総合的に判断すべき、という初めての判断を示している。その時の状況によっては、家族側が重い賠償責任を負わされてしまう可能性もあるという。認知症の高齢者は今後、2025年までに約700万人以上に増加する見通しだ。不慮の事故が起こった時にも、当事者を社会全体で支えるための仕組みの創設が求められている。