2018年4月23日 高速炉開発の方向性を提言 原子力学会、2050年代の実用化に向けて

「わが国のエネルギーミックスには安定した大容量電源である原子力発電の貢献が必要不可欠」という立場を堅持する日本原子力学会は、2016年末に公表された国の「高速炉開発の方針」に基づき検討が開始された高速炉開発戦略ロードマップに対して、高速炉開発の方向性に関する提言をまとめた。

提言では、2050年代には実用できる技術基盤を整備すべきこと、また、「もんじゅ」の経験知があるうちに次世代を担う若手研究者・技術者とともに高速炉技術を維持・発展させるべきだとの2点を特に強調している。

今回の提言は、高速炉を中心にした新型炉の研究開発に係る大学、研究機関、産業界の研究者・技術者で構成する同学会新型炉部会を中心に議論を進めてきた。

ウラン資源の利用を大幅に拡大できる高速炉サイクルは、長期にわたりエネルギーを安定供給し、ウラン資源の利用率拡大や放射性廃棄物の減容と潜在的有害度の低減を達成できる可能性があることから、開発意義は今後も変わることはないとの考えを基本としている。

2011年の東京電力福島第一原子力発電所事故以降、原子力エネルギー利用全体が国民の半数以上から支持されない状況に陥り、高速炉の開発計画も不透明な状況になっている。2016年12月の原子力関係閣僚会議で、高速増殖原型炉「もんじゅ」の廃止措置が決定された。同時に「高速炉開発の方針」が示され、国は今後10年程度の開発作業を特定する「戦略ロードマップ」を2018年を目途に策定するとした。

これを受け新型炉部会では、「高速炉戦略ロードマップ検討会」を設置し、高速炉開発の方向性について、100年後を見据えた姿から遡って考える長期的視点と、今後数十年で取り組むべき短期的視点から提言をまとめた。

 

  ロシア・インド・中国は継続

新型炉部会では、国がエネルギー政策を立案するにあたっては、世界のエネルギー市場動向も考慮し、資源論的にわが国への影響を厳しい方向に考えておく必要があると指摘。

ウラン資源の逼迫や価格の高騰に備え、必要性が高まる可能性のある2050年代には高速炉を実用化できる技術基盤を整備し、国産エネルギー源を確保できるよう備えておくべきとしている。世界に目を転じれば、長期的なエネルギー源の確保を考えているロシア、インド、中国では軽水炉の導入と並行して高速炉の開発・建設が進められている。

高速炉サイクルの導入により、わが国のエネルギー自給率を現在の7%から大きく改善でき、また、原子力固有の環境問題である放射性廃棄物に関しては、放射性半減期の長い高レベル放射性廃棄物を燃焼・核変換し、廃棄物量の低減(放射性廃棄物の減容)と放射能レベルが高い期間の短縮(潜在的有害度の低減)が可能となることから、エネルギー・環境問題解決の鍵となり得る。

 

  技術継承や人材育成が急務

また、わが国の高速炉開発には長期間を要しており、原型炉「もんじゅ」の設計・建設から30~40年が経過。次期炉の設計に「もんじゅ」の経験を活かすことが困難な状況にあり、世代間での技術継承や人材育成が急務となっている。

机上の設計研究と要素技術開発だけでは、高速炉の実用化に必要な機器の開発、プラント建設、運転保守といった能力は涵養されない。

自由な発想で多様な概念検討や基礎研究に取り組める大学での教育環境を確保することも、新たな研究開発や概念の創出のために重要だと強調している。

福島第一事故を踏まえた安全性向上については、自然災害への対策やシビアアクシデント対策などを確実にしていく必要がある。具体的には、自然災害を起因とするものも含めて炉心損傷を受動的に防止できる機構の採用とともに、さらに、仮に大規模な炉心損傷に至った場合にも、影響を原子炉容器内で終息させ、最終障壁である格納容器内に放射性物質を閉じ込め、周辺公衆の避難を不要とできるほど安全性を高めるだきだと訴えている。


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