文部科学省の調査によると、平成27年4月から同29年3月までの2年度間に生徒の妊娠の事実を学校が把握した2098件のうち、妊娠を理由に懲戒として退学の処分を行った事案は認められなかったものの、生徒や保護者が引き続きの通学を希望していた事情があるにもかかわらず、学校が退学を勧めた事案が32件認められた。調査結果を受けて文科省は、全国の教育委員会あてに「公立の高校における妊娠を理由とした退学等に係る実態把握の結果等を踏まえた妊娠した生徒への対応等について」の通知を発出し、〝学業継続〟を基本とした適切な指導を行うよう要請した。
通達は、文科省の初等中等教育局児童生徒課長と健康教育・食育課長の連名で出したもので、「妊娠した生徒の学業の継続に向けた考え方」として、生徒が妊娠した場合には関係者間で十分に話し合い、母体保護を最優先としつつ、教育上必要な配慮を行うべきものだと指摘。退学、停学及び訓告の処分は校長の判断によって行うものだが、生徒に学業継続の意思がある場合は、教育的な指導を行いつつ、安易に退学処分や事実上の退学勧告などの対応は行わないという対応も十分考えられるとの認識を示している。
妊娠した生徒が退学を申し出た場合には、生徒や保護者の意思を十分確認することが大切だとし、退学以外に休学、全日制から定時制・通信制への転籍や転学といったような学業を継続するためのさまざまな方策があり得ることについて必要な情報提供を行うよう要請している。
その上で、「妊娠した生徒に対する具体的な支援の在り方」として、妊娠した生徒が引き続き学業を継続する場合は、生徒や保護者と話し合いを行い、生徒の状況やニーズも踏まえながら、学校として養護教諭やスクールカウンセラーらも含めた十分な支援を行う必要があるとしている。
また、体育実技などの身体活動を伴う教育活動においては、生徒の安全確保の観点から工夫を図った教育活動を行ったり、課題レポートなどの提出や建学で代替するなど母体に影響を与えないような対応を行う必要があるとしている。
妊娠を理由として退学をせざるを得ないような場合であっても、再び高校などで学ぶことを希望する者に対しては、高校等就学支援金などによる支援の対象となり得ることや、高校卒業程度認定試験があること、就労を希望する者や将来の求職活動が見込まれる者に対しては、ハローワーク及び地域若者サポートステーションなどの就労支援機関があることなどについて、生徒の進路に応じた必要な情報提供を行うよう求めている。
また、各教育委員会においては、妊娠を理由として過去に高校などを退学した者についても、ハローワークなどの関係機関と連携しつつ、学習相談などの効果的な支援の実施を推進するよう求めている。
こうした要請を前提に、妊娠による学業の遅れや進路の変更が発生する場合があり得ることにも留意が必要であることを踏まえ、学習指導要領に基づき、生徒が性に関して正しく理解し適切な行動をとることができるように性に関する指導を保健体育科、特別活動で行うなど、学校教育活動全体を通じて必要な指導を行うこととしている。