このほど、農研機構農業環境変動研究センターと森林研究・整備機構森林総合研究所は、FAO(国連食糧農業機関)による全世界が対象の地球土壌有機態炭素地図の日本部分を作成した。この成果は、気候変動対策の立案や、持続可能な土壌資源の管理・利用を行うための、土壌有機態炭素に関する国際的な基盤データとして利用することができる。
陸域最大の炭素プールで二酸化炭素の収支に影響を与える土壌有機態炭素
土壌は気候変動、食料安全保障、持続可能な農林業開発、生物多様性の保全といった地球規模の問題に直接・間接的に関わっている。特に、土壌有機態炭素は陸域最大の炭素プールであり、その分解や蓄積が気候変動の主要な原因である大気の二酸化炭素の収支に影響を与えることが知られている。また、土壌から有機態炭素が失われると土壌の健全性が損なわれ、持続的な農林業生産が困難になることから、注目されている。
地球土壌情報システムの構築を推進 日本全土をカバーする地図の作成
こうした中、FAOに事務局を置く「FAO‐GSP(地球土壌パートナーシップ)」では、地球全体の各種土壌情報を統一的に提供する「地球土壌情報システム(Global Soil Information System(GLOSIS))」の構築を目指しており、その具体的な一歩として、気候変動、砂漠化防止、生物多様性保全といった地球規模の問題に対応するための基盤データとして求められている地球土壌有機態炭素地図(GSOCmap)の作成を進めており、加盟国に協力を呼びかけている。
これを受け、日本では、農林水産省等関係機関における調整が進行。その結果、農地部分は農研機構、森林部分は森林総合研究所が分担してデータ整理を行い、日本全国をカバーする日本土壌有機態炭素地図を作成することとなった。
これまでの調査データを活用 全国を同一の規格で地図化
今回とりまとめられた日本土壌有機態炭素地図の作成にあたっては、▽農地土壌炭素貯留等基礎調査事業(2008年~)および森林吸収源インベントリ情報整備事業(2006年~)で得られたデータ ▽自然湿地に分布する泥炭土に関する過去の土壌調査データ ― が整理されている。
この地図では、1kmメッシュ(約1km×1km)単位で、深さ0~30cmの面積あたりの炭素量(ヘクタールあたりの炭素トン数)を示している。また、農地、森林などの土地利用方法によらず、全国を同一の規格で地図化しており、この点がわが国では初となる。FAOが全世界を対象に作成する「地球土壌有機態炭素地図」の日本部分を構成している。
二酸化炭素吸収源対策の策定や土壌劣化対策の策定での利用に期待
FAO‐GSPが公表する地球土壌有機態炭素地図により、世界中の土壌有機態炭素の状態把握が可能になった。この地図は、土壌有機態炭素量に応じた二酸化炭素吸収源対策の策定や、土壌有機態炭素量を指標として把握できる表土流亡など土壌劣化の状態に応じた地域ごとに有効な土壌劣化対策の策定など、気候変動、食料安全保障、持続可能な農業開発、生物多様性の保全などの地球規模の問題に対処する際の共通基盤データとして利用が期待されている。
また、わが国でも、二酸化炭素吸収源としての土壌有機態炭素蓄積量の評価や、「土づくり」をはじめとする持続的な農林業を可能とする土壌管理の実現等に対する基盤データとしての利用に期待が寄せられている。