厚生労働省の中央社会保険医療協議会はこのたび、アトピー性皮膚炎の治療などに使われる保湿塗り薬が美容目的で使われている実態を受け、1度に処方できる数を限定するといった対応策について議論を交わした。問題提起した支払い側は、不適切な使用を是正することで、薬剤費を削減するねらいがある。
議論の対象となったのは、アトピーに伴う肌の乾燥対策やケロイドの治療と予防などに用いられる「ヒルドイド」。高い保湿効果や血行の促進作用を、およそ10年前に雑誌が美容アイテムとして紹介し、それが芸能人やモデル、美容形成外科医などのSNSを通じて広まった。
■ 25歳~54歳の処方額、男女で5倍
大手企業のサラリーマンやその家族らが加入する健康保険組合連合会の調査によれば、2014年10月から2016年9月の期間に保湿剤のみを処方されたレセプトを調べたところ、男性の処方額が約11億円だったのに対し、女性の処方額はそのおよそ1.5倍にあたる約17億円だった。年代別にみると、25歳から54歳の処方額が、男性は1.2億円である一方、女性はその5倍の5.9億円に上っている。さらに、男性の処方額のうち、25歳から54歳の患者が占める割合は約10%だったが、女性では約35%を占めていた。また、「ヘパリン類似物質のみの処方であり、かつ皮膚科系の傷病名が皮膚乾燥症のみ」のレセプトによる処方額は年間約5億円だと分析。全国では年間で93億円程度になると推計している。
これらのデータから健保連は、「数年前から現在に至るまで、美容目的で『皮膚乾燥症』のレセプト病名でヘパリン類似物質の単剤処方を受ける患者が増加している可能性がある」と主張。外来で皮膚乾燥症に対して保湿剤(ヘパリン類似物質または白色ワセリン)が他の外皮用薬もしくは抗ヒスタミン薬と同時処方されていない場合には、当該保湿剤を保険適用から除外するべきだとした。そのうえで、日本で保険収載されている保湿剤が英・仏・米では保険収載されていないことや、ヘパリン類似物質・ヘパリンナトリウム・白色ワセリンが第2類医薬品・第3類医薬品として市販されていることなどを理由に、中長期的には保湿剤の処方そのものを保険適用外とすることも検討すべきだとしている。
■ 治療に支障がないよう慎重な判断を
会合では、日本医師会の松本吉郎常任理事が、「皮膚乾燥症は、皮膚のバリア機能が障害され生じる皮膚の疾患だ」と説明。患者のQOLやステロイドからの切り替えなどを考えた場合、保湿剤のみを治療に使うこともありうると述べたうえで、全身にアトピーの症状がある患者などでは大量に処方するケースもあると理解を求めた。今後に向けては、メーカーや学会などから注意が喚起されているとして、「しばらく様子をみつつ、背景を詳しく調査すべきだ」としている。
これには全国健康保険協会の吉森俊和理事も「安易に使用制限するのではなく、原因を明確にして対策を練った方がいい」と賛同。制限する場合についても、どういった手法で行うかを検討する必要があると語った。