東京大学の研究グループは、超柔軟で極薄の有機LEDを作製し、大気中で安定に動作させることに成功した。この超柔軟有機LEDは、すべての素子の厚みの合計が3マイクロメートルしかないため、皮膚のように複雑な形状をした曲面に追従するように貼り付けることが可能。実際に、肌に直接貼りつけたディスプレイやインディケーターを大気中で安定に動作させることができる。
さらに、極薄の高分子フィルム上に有機LEDと有機光検出器を集積化し、皮膚に直接貼り付けることによって、装着感なく血中酸素濃度や脈拍数の計測に成功した。開発の決め手となったのは、水や酸素の透過率の低い保護膜を極薄の高分子基板上に形成する技術。この研究で、貼るだけで簡単に運動中の血中酸素濃度や脈拍数をモニターして、皮膚のディスプレイに表示できるようになった結果、ヘルスケア、医療、福祉、スポーツ、ファッションなど多方面への応用が期待される。
進むエレクトロニクスと生体の融合
ここ数年、エレクトロニクスと生体との融合が進んでおり、エレクトロニクスや情報通信技術の発展によって、老化によって弱りつつある能力を回復させたり、健康状態をモニタリングしたりする技術への応用が進められている。実際に、義手・義足、人工内耳、人工心臓などがすでに実用化されており、また、人が身に着けるタイプの新しいエレクトロニクスが、ウェアラブルデバイスとして大きな発展を遂げている。
さらに、スマートメガネやコンタクトレンズを身につけただけで、ライフログや血糖値を計測できるデバイスが実現。さらに、パワースーツが実用化され、高齢者の弱った力をアシストするとともに、作業員の重い荷物の運搬をアシストできるようになった。
困難な有機光デバイスの「安定」
こうしたなか、人がデバイスを身に着けるだけでなく、皮膚を含む生体組織の表面を直接電子化する技術への注目が高まっている。この技術は、薄い高分子フィルムに半導体デバイスを製造後に、ロボットの表面に貼り付けてモノの表面を電子化する手法から派生しているもの。
一方で、ロボットの表面と比較して人間の生体組織の表面は、複雑な形状をしており、柔らかく、いつも動いている。このため、より柔軟性に優れる極薄の電子デバイスが求められている。
特に、高分子フィルム上に作製された有機デバイスは、可とう性と生体との密着性が優れているため、装着感のないウェアラブルデバイスとして応用が期待されている。
実際に、これまでに厚みが2マイクロメートルの有機トランジスター集積回路などが開発され、人間の皮膚に直接貼りつけて、筋肉を動かすときに生じる電位である筋電など生体の電気信号計測に応用されてきた。
ところが、有機発光ダイオードなど有機光デバイスは、大気中で安定に動作させることが困難で、生体に表面にさまざまな電子的機能を実現する際の制約となり、極薄の有機LEDを大気中で安定に動作するための技術の確立が待ち望まれていた。
世界で初成功
今回開発に成功したのは、東大大学院工学系研究科の染谷隆夫教授と横田知之講師らのグループ。JST戦略的創造研究推進事業の一環として研究を進めた。高性能な有機LEDを極薄の高分子フィルム上に作製することによって、くしゃくしゃに曲げられる超柔軟性を維持したままで、大気中に安定に動作させることに、世界で初めて成功した。
基材は生体適合性に優れる高分子フィルム「パリレン」。厚さは1000分の1ミリである1マイクロメートル。基材や保護膜を含むディスプレイ全体の厚みは、人間の皮膚表紙の約10分の1に相当する3マイクロメートルしかない。
この研究成果は、ヘルスケア、医療など、さまざまなケースでの活用が期待される。研究チームでは、「自分の心拍数に同期して明るさの変わるインディケーターを額につけて、自分のドキドキをほんの少し相手に伝えることによって、コミュニケーションが変わるかもしれない」と、多彩な〝未来〟を想像する。