2017年9月21日 量研機構第1号ベンチャー 採血不要の血糖値センサー実用化に挑戦

採血不要の血糖値センサーの実用化に向けて量研機構の研究グループが最先端レーザーをコア技術としたベンチャー:ライトタッチテクノロジー株式会社を設立し、研究成果の社会還元を目指す。病院から一般家庭まで広く普及できる小型の非侵襲血糖値センサーを事業展開することで、糖尿病患者の身体的及び精神的負担を軽減し、QOLの向上を図る。

国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(量研機構/QST)は、量子ビーム科学研究部門関西光科学研究所量子生命科学研究部レーザー医療応用研究グループが開発した高輝度中赤外レーザーを用いた、採血なしで血糖値を測定する技術(非侵襲血糖測定技術)の実用化を目指すライトタッチテクノロジー株式会社を、QSTベンチャー第1号として認定した。

文部科学省の大学発新産業創出拠点プロジェクト(START)の成果の活用でもあり、今後同社は、最先端レーザーをコア技術とした非侵襲血糖値センサーを事業展開し、研究成果の社会還元を目指す。

採血をしないで血糖値を測定する技術(非侵襲血糖測定技術)の開発は、可視や近赤外光などを用いてこれまで20年以上にわたり行われ、一部では既に製品化を目指した開発も行われているが、糖以外のタンパク質、脂質といった血液中の成分や体温などの影響を大きく受けるため、臨床応用に必要とされる十分な測定精度を得ることができていない。

量研機構の研究グループは、固体レーザーの最先端技術と光パラメトリック発振(OPO)という技術を融合することにより、世界で初めて手のひらサイズの高輝度中赤外レーザーの開発に成功し、一定の条件の下ではあるが、国際標準化機構が定める測定精度を満たす非侵襲血糖測定技術を初めて確立した。

2015年の国際糖尿病連合(IDF)の報告によると、日本国内で720万人、世界では4億1500万人が糖尿病患者であると言われており、これは世界の成人人口の8.8%を占める。今後患者数はさらに増加すると予測されており、2035年には世界で5億9190万人、10人に1人は糖尿病という時代が訪れようとしている。

糖尿病は、膵臓から分泌されるインスリンというホルモンの量や作用が低下し、血液中のブドウ糖の濃度が高くなる病気。糖尿病患者にとって、高血糖の状態が続くと、網膜症や腎症そして脳卒中といった様々な合併症のリスクが高まるため、患者は採血型自己血糖値センサーなどを用いて、1日複数回血糖値を測定しなければならない。

現在行われている血糖測定法は、指などを針で刺して採取した血液を測定するため、患者は煩わしさとともに苦痛や精神的ストレス、さらに感染症の危険を伴うなど、多くの問題を抱えている。また、針やセンサチップなどの消耗品のコストが高く、年間1人当たり約20万円の経済的負担を強いられている。

糖尿病患者のみならず、日々患者の血糖測定を行う医療現場でも、採血にかかる負担を低減し、ひいては診断および治療のスピードアップのため、精度が高く、コストのかからない非侵襲血糖値センサーの開発は大いに期待されている。糖尿病患者が痛みを伴わず日常の血糖値管理ができるようになれば、患者のQOL向上に繋がる。公共施設などにも設置できれば、健常者の予防意識を高めて糖尿病人口の増加を抑制し、ますます増え続ける国民医療費の削減にも貢献するものと期待されている。


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