大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構(KEK)では、KEKの研究者が初の試みとして挑戦していたクラウドファンディング(CF)で、目標額の2倍を達成したと発表した。KEKでは、高校生に最先端の素粒子研究を体験してもらうサイエンスキャンプ「Belle Plus(ベルプリュス)」など、次世代育成の取り組みも積極的に行っており、今回のCFは、ベルプリュスの運営資金の獲得を目的とするもの。
KEKでは、寄せられた資金を、地域や家庭の経済状況によらず、科学を志す高校生が平等にチャンスを得られるよう、KEKまでの旅費・宿泊費を全額サポートするために使うこととしている。また、目標額を超えて集まった資金については、来年度以降も継続的にキャンプを開催していくための費用として使用する。
達成率246%、支援者226人
クラウドファンディングを行ったプロジェクト名は『素粒子実験の未来を担う研究者を育てたい!』で、素粒子原子核研究所の西田昌平准教授と中山浩幸助教が〝挑戦者〟として応募した。募集期間は6月1日から7月10日まで。目標金額80万円のところ、2倍以上の197万2488円(達成率246%、支援者226人)が集まった。
茨城県つくば市にあるKEKは、加速器と呼ばれる装置を使って基礎科学を推進する研究所。高エネルギー加速器は、電子や陽子などの粒子を光の速度近くまで加速して高いエネルギーの状態を作り出す装置。KEKには、素粒子原子核研究所と物質構造科学研究所の二つの研究所と、加速器研究施設、共通基盤研究施設の2研究施設がある。
大学共同利用機関として、大学の研究者や大学院生にこれらの最先端の研究の場を提供し、日本の基礎科学研究のレベル向上に大きく貢献。国外からは毎年延べ2万人を超える研究者が来訪し、共同で研究を行うとともに、世界中の若者が切磋琢磨する場ともなっている。
研究者も驚く粒子発見も
KEKで行っている Belle Ⅱ実験は、Belle Ⅱ測定器を使って加速器で生じる大量の素粒子反応データの蓄積、解析を行うもの。前身であるBelle測定器と比べると、50倍のデータを収集することができるため、新しい物理法則の発見が期待されるが、加速器実験には、建設期間を含めると15年以上もの長い年月がかかる。
Belle Ⅱ実験グループでは、科学を志す高校生に最先端の素粒子研究を体験してもらうサイエンスキャンプ「BellePlus」を2006年からほぼ毎年開催してきた。
今回、CFの対象となったベルプリュスは、KEKと奈良教育大学が共催し、全国から高校生がKEKに集って研究者や大学院生による指導のもとで、ハイレベルの実験を行うもの。8月7日から10日の日程により実施予定で、選ばれた高校生20名が参加。過去には参加した高校生が、研究者も驚く珍しい粒子を発見したこともある。
また、今回のCFは、日本初の学術系CFプラットフォーム「アカデミスト」を使用。2014年に設立し、自然科学分野から人文・社会科学分野まで多様なプロジェクトが実施されており、8割以上の事業が研究費獲得に成功している。