いよいよ開催まで5年を切った東京オリンピック・パラリンピック。現時点では7月中旬から8月31日までの開催が予定されており、酷暑ともいえるわが国の夏で世界的イベントを迎えることとなる。2020年の五輪本番で多くの競技を開催する東京湾臨海部では猛烈な暑さが予想され、猛暑を意識したインフラ整備が不可欠であることから、国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)の地球情報基盤センターでは、東京湾臨海部周辺を対象とした超高解像度数値シミュレーションを実施。真夏の猛暑日の風の流れ、気温、湿度などに及ぼす緑地の効果を定量的に解析し、樹木と芝生の相乗効果で熱環境の改善が期待されることがあらためて確認された。センターでは、「体感温度や緑地対策の効果を明らかにするもので、効果的な環境対策のあり方の参考になる」と意義を強調している。
海風が温められ都心に流入
この調査は、2020年東京五輪・パラ五輪の開催に合わせて東京都市圏でのインフラの更新・改変が見込まれることを踏まえて行ったもの。気候変動やヒートアイランドによる将来にわたる気温上昇に対する持続的な暑熱環境対策の検討につなげる情報を提供することを目的としている。
調査は、JAMSTECのスーパーコンピュータ「地球シミュレータ」などを活用し、JAMSTECで開発を進めてきた樹木の物理的作用を考慮可能な大気海洋結合モデル「MSSG」により、東京ベイゾーンと国立競技場付近周辺の二つの地区に対する解析度5メートルでの大規模数値シミュレーションを実施。南東から吹く東京湾からの海風が臨海部で徐々に暖められながら都心まで流入する様子が明確に確認された。
また、競技会場へのアクセスルート上での地上気温や暑さ指数に関しても分析した。その結果、既存緑地がない臨海部と現在の都内全般を比較した結果、都内全般の方が0.54度臨海部よりも低く、2020年までに計画されている緑地等を整備した場合、さらに0.05度低下することが判明。緑地整備によって周辺の温度が顕著に低下することがあらためて確認された。
緑地整備でも熱中症リスク 低減効果はわずか
さらに、熱中症リスク低減の観点から28度未満になる領域に関しては、都内全域は臨海部と比べて3.4倍で、さらに2020年までの緑地整備を進めると、1.1倍となる。
こうした調査結果を受けてセンターでは、暑さ指数の局所的な要因を明らかにするために、海風に沿った鉛直断面上で詳しい解析を実施。その結果、樹冠下の日陰では顕著な暑さ指数の低下がみられるものの、アスファルト上といった緑地付近の日向では、樹木の防風効果などの減少によって暑さ指数が上昇する場合があることが明らかとなった。
一方、緑地付近の日向であっても芝生が整備されている場所では、熱さ指数の上昇が抑えられており、樹木と芝生の相乗効果により熱環境の改善が期待されることが確認された。
MSSGは暑熱環境改善策検討の強力なツール
センターでは、この解析結果を受けて、「緑地等の整備による暑熱環境の変化が定量的に明らかになり、MSSGが街区規模から都市計画規模での暑熱環境改善策を検討する上で強力なツールになり得るが実証された」と指摘。さらに、樹木などによる日陰の創出に加えて、効果的な間隔での樹木の整備と合わせて樹木周辺に芝生・保水性舗装といった地表面の整備を行うことで、さらなる暑熱環境改善の効果が期待されるとしている。