金融に詳しい人は老後に対する心配が少ない―。広島大学准教授らが行った全国アンケート調査結果データ分析により、こんな傾向が明らかとなった。また、お金の動きを理解する能力である「金融リテラシー」の向上が、貯蓄や投資の適切な決定とリスクの予見を促すことから、老後の不安軽減の重要な要因となることがわかった。この研究成果はリスク研究の国際学会誌「ジャーナル・オブ・リスク・リサーチ」オンライン版(4月13日)に掲載された。
この分析を行ったのは、広島大大学院社会科学研究科の角谷快彦准教授と研究助手のムスタファ・サイドゥ・ラヒム・カン氏。角谷准教授は、「金融リテラシーは金融商品に対する知識を高め、また、それらを比較できるようになり、そして金融行動を変化させます。そして、それら全ては、老後の不安を軽減するように思われている」としている。
角谷准教授は、大阪大学が4500人を対象として実施した全国規模のアンケート調査から、全年齢と40歳以上のサブサンプルの被験者の結果を2010年度から2012年度調査まで抽出。複利や金利、リスク回避、国債などの質問の正答率で算出される金融リテラシーが、被験者の老後の生活不安の度合いにどのような影響を及ぼしているかを分析した。
金融リテラシーは不確実性への認識を的確に
その結果、金融リテラシーの高さは、老後のための資産蓄積を通じて、被験者の老後の生活不安を軽減することがわかった。金融リテラシーが高い人程、収入や資産が多いので、老後に対する不安が少なくなると考えられるとともに、金融リテラシーはリスクと不確実性に対する認識を的確にするので、将来起こり得る課題に対する対応力と対処への自信を深めさせる効果もあることが明らかとなった。
さらに、配偶者がいることも老後の不安の軽減に対し重要。既婚の被験者は夫婦で協力してよりよい計画を立てることが可能であることなどから、老後の不安が低いことが明らかになってきている。
また、年齢も重要で、老後の不安は40代でピークに達する。この点については、この年齢層は家庭や職場で重責を担う一方、お金と時間が限られる傾向にあるので、現在、さらに将来にまで及ぶ不安が大きくなりがちだと分析している。
一方、扶養する子どもがいると不安のレベルは上がる傾向にある。被験者は自分のことだけでなく、子どもの将来も心配しなくてはならないからと考えられる。
過度の不安取り除く政策の実現に
日本は国民皆年金制度を保有しているとはいえ、給付額は現役時代に収めた納付額によってあらかた決まる。また、フルタイムの仕事の定年年齢は過去数十年間それほど変わっていない一方で、平均寿命は大きく改善しているので、一般的に年金等に頼らざるをえない期間も延びている。
先進国といえども、老後の生活は、年金だけで賄えるわけでは必ずしもなく、金融リテラシーによって左右される貯蓄や資産の大きさが重要な意味を持つ。今後、超高齢化社会を迎えるにあたって、一人ひとりが老後の心配をするだけでなく、政府が不安の要因を抑制する戦略を描く必要がある。
こうした現状を踏まえ、角谷准教授は、「引き続き、老後の不安を取り除く要因を一つずつ明らかにすることで、過度の不安を取り除く政策の実現につながると思われます」としている。