日本国内には、現在も伝統的で多様な農林水産業を営み、美しい田園風景や伝統ある故郷、助け合いの農村文化を守り続けている地域がある。そうした将来に受け継がれるべき伝統的な農林水産業システムを広く発掘し、その価値を評価するため、農林水産省は昨年、新たに「日本農業遺産」を創設した。
日本農業遺産は、社会や環境に適応しながら何世代にもわたり形づくられてきた伝統的な農林水産業と、それに関わって育まれた文化、ランドスケープ、生物多様性などが一体となった農林水産業システムのうち、世界・日本における重要性、歴史的・現代的重要性を有するものを農林水産大臣が認定する仕組み。
今年3月に初めて認定が行われ、▽宮城県大崎地域‐「大崎耕土」の巧みな水管理による水田農業システム ▽埼玉県武蔵野地域‐武蔵野の落ち葉堆肥農法 ▽山梨県峡東地域‐盆地に適応した山梨の複合的果樹システム ▽静岡県わさび栽培地域‐静岡水わさびの伝統栽培(発祥の地が伝える人とわさびの歴史)▽新潟県中越地域‐雪の恵みを活かした稲作・養鯉システム ▽三重県鳥羽・志摩地域‐鳥羽・志摩の海女漁業と真珠養殖業‐持続的漁業を実現する里海システム ▽三重県尾鷲市、紀北町‐急峻な地形と日本有数の多雨が生み出す尾鷲ヒノキ林業 ▽徳島県にし阿波地域‐にし阿波の傾斜地農耕システム ― の8地域が選定された。4月19日に認定証の授与式と記念シンポジウムが行われる。
また、宮城県大崎地域、静岡県わさび栽培地域、徳島県にし阿波地域については、「世界農業遺産」の認定申請についても承認されている。この制度は、世界的に重要かつ伝統的な農林水産業を営む地域を国連食糧農業機関(FAO)が認定する制度で、世界では16ヵ国37地域が認定されている。日本では、新潟県佐渡市、石川県能登地域、静岡県掛川周辺地域、熊本県阿蘇地域、大分県国東半島宇佐地域、岐阜県長良川上中流域、和歌山県みなべ・田辺地域、宮崎県高千穂郷・椎葉山地域の8地域が認定されている。
この2つの制度は、失われつつある地域固有の農林水産業の価値に光を当てるもの。その価値が認められることで、地域の人々に自信と誇りをもたらすとともに、農産物のブランド化や観光客誘致を通じた地域経済の活性化も期待できる。また、国内には、まだまだ伝統的な農林水産業システムを有する地域がたくさんあり、そうした地域の人達が、自らが住む場所の歴史や伝統、魅力などに気づくきかっけになるという点でも、大きな意味を持つ。