2024年12月25日 「技術カタログVer.3.0」を作成・公表 アジアモンスーン地域の生産力向上と持続性の両立

農林水産省の「みどりの食料システム基盤農業技術のアジアモンスーン地域応用促進事業」において、本事業を実施する(国研)国際農林水産業研究センターが「アジアモンスーン地域の生産力向上と持続性の両立に資する技術カタログVer3.0」を作成し公表した。

農林水産省では、気候変動緩和と持続的農業の実現に資する技術のアジアモンスーン地域での実装を促進するため、わが国の有望な基盤農業技術の収集・分析や、同地域で共有できる技術情報の発信等を行う「みどりの食料システム基盤農業技術のアジアモンスーン地域応用促進事業」を実施している。

今回、事業を実施する国際農林水産業研究センターが、これまでの農林水産分野の国立研究開発法人(農業・食品産業技術総合研究機構、森林研究・整備機構、水産研究・教育機構)に加え、(国研)産業技術総合研究所、国内大学による9件の技術を新たに収録し、計40件の技術を掲載するVer.3.0を公表した。

また、それに併せ、技術カタログWebデータベースに新たに共同研究参画機関の機関名と国名を掲載した上で、国名での検索も可能とした

 

今回追加された技術・ポイント

 

【ハウス冷暖房の排ガス活用により温室効果ガスの排出を削減し施設園芸の生産性を高めるCO2回収・施用装置(産総研)】

施設園芸では生産性を高めるため、ハウス等の園芸用施設内に二酸化炭素(CO2)の施用が行われる。夜間の暖房等で生じる排ガスからCO2を回収・貯留し、施設内に施用することで光合成を促進し、バラ等の園芸作物の収量を30~45%増加させるとともに、温室効果ガスの排出を削減できる。

 

【工業分析に基づくバイオ炭を用いた農地土壌炭素貯留量の簡易で正確な推定手法(立命館大学、秋田県立大学)】

気候変動の緩和と土壌保全に貢献するものとして、バイオ炭が注目を集めており、炭素クレジットの手段にもなっている。バイオ炭の農地土壌炭素貯留量の算定には通常、元素分析等の時間と費用の掛かる方法が使われるが、開発した手法は石炭の品質表示として使われる工業分析を応用した。本手法で簡易ながら精度よく炭素貯留量の推定が可能となり、バイオ炭の活用に繋がる。

 

【脱炭素に貢献する高糖性高バイオマスソルガムF1新品種「炎龍」(信州大学、名古屋大学)】

ソルガムの雑種強勢(遺伝的特性の異なる両親から生じた雑種の第一世代(F1)において、両親よりも優れた形質が現れる現象)という農業上重要な現象を遺伝学的に解明し、高バイオマス性に必要十分な重要遺伝子を特定したことで、雑種強勢の原理が解明された。高糖性と高バイオマスを併せ持つソルガムF1新品種「炎龍」は、それを応用した最初の育種例であり、搾汁糖液をエネルギー原料に、残渣を家畜飼料に使うカスケード利用(ある利用での残渣を他の利用での材料にする多段階の活用方法)という、新しいコンセプトを脱炭素社会構築へ提案する。

 

【稲・麦ワラなどの農業残渣を埋設資材として用い簡単に暗渠排水を構築する有材補助暗渠機「カットソイラー」(国際農研、農研機構)】

日本で開発されたトラクターアタッチメント「カットソイラー」は、トラクターによる牽引・走行のみで、農業残渣を活用した浅層暗渠(ほ場を掘削することなく地下約40~60cmの比較的浅い位置に排水孔を施工するもの)を安価で容易に造成することができ、ほ場の排水改良、土壌塩類化の軽減、農業残渣の処理に貢献する。

 

【事前乾燥を取り入れた水稲種子の高温温湯消毒による病害の防除(東京農工大学)】

水稲の種子温湯消毒法において、種籾の水分含量を消毒前に10%未満まで乾燥させる事前乾燥処理により、温湯消毒時の高温耐性が向上することが見出された。このことを利用して、慣行法より5度も高い高温(65度)で消毒できる技術(高温温湯消毒法)が確立され、実用化された。これにより、従来は温湯消毒の防除効果が十分でなかった「ばか苗病」にも、効果が得られる。

 

【熱ショック処理によるイチゴの病害防除(茨城大学)】

栽培中のイチゴに対して週1回、温湯を散布することで植物体に病害抵抗性を誘導し、農薬との代替が可能なレベルでうどんこ病の発生を抑制できる。既存化学合成農薬で防除困難なうどんこ病薬剤耐性菌対策としても有効であるほか、熱による直接的な病害虫防除効果も期待できる。

 

【サゴヤシの計画的管理を実現する種子発芽率の飛躍的改善と実生による増殖(名古屋大学)】

果皮を除去する果実への簡単な物理的処理により、発芽率を飛躍的に高め、実生による増殖が可能となる。実生苗を定植する栽培方法は、従来の吸枝(きゅうし:地下茎の一部が地上に現れた若芽の部分)を切り取って移植する方法に比べ、ほ場での生存率を30%以上高められ、計画的な資源管理を可能にする。

 

【資源評価に必要な漁獲物の全長情報を迅速に収集するスマートフォンアプリケーション(ToroCam)(水産研究・教育機構)】

漁獲物(魚類)の全長情報をスマートフォンを通じて撮影した画像に記録するアプリケーション(ToroCam)を開発した。現場の測定員は、従来のように手で漁獲物の大きさを測定することなく、撮影するだけで全長情報を記録・収集することができ、労働時間と経費の削減に繋がる。

 

【口蹄疫の早期防疫対策を可能にする現場で活用可能な簡易・迅速診断技術(宮崎大学)】

ポータブル式遺伝子増幅装置を用い、農場現場で採取した組織から口蹄疫ウイルスを20分以内に高感度に検出できる技術を開発した。農場での感染動物の早期発見を可能とし、感染症発生後に迅速な防疫の初動対応を可能とする。


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