名古屋大学大学院環境学研究科の平野 恭弘 准教授、生命農学研究科の谷川 東子 准教授らの研究グループは、福知山公立大学、兵庫県立農林水産技術総合センター(森林林業技術センター)、兵庫県立大学、京都大学との共同研究で、海岸に生育するクロマツの根系は土壌環境に適応して成長し、樹高が高くなるほど根が深くなることを新たに明らかにした。
国内の海岸には、強風や海塩、津波に対する強さからクロマツが植栽されてきた。根が深いほど樹木は倒れにくく、津波や強風に対する減災機能も向上する。海岸林の減災機能を評価する指標として、根の最大深さを推定することが必要となる。
この研究では、海岸に生育するクロマツ根系を掘り取り、土壌環境と根の最大深さを測定した。また、掘り取り直後のデジタル画像から根系三次元構造の再現を可能とした。その結果、根の最大深さは、土壌環境に適応し、樹高が高くなるほど深くなることを明らかにした。
この結果は国内で掘り取られたクロマツの根の最大深さと樹高との関係性でも確認された。この研究結果の応用として、樹高成長の悪いクロマツについて、根を深く誘導する森林管理を行うことで、減災機能の高い海岸林再生への応用が期待される。この研究成果は、11月27日付で日本森林学会国際誌『Journal of Forest Research』にオンライン公開された。
平野教授らは、愛知県田原市の海岸に生育するクロマツ根系を掘り取り、地上部特性と土壌特性とともに根の最大深さを測定した。掘り取り直後に現場でデジタル画像のデータを取得し、実験室で根系構造の再現を試み、地上部や土壌特性との関係を評価。さらに根の最大深さに関する関係性について国内で掘り取られたクロマツ研究結果も組み入れて解析した。
研究成果は2点。
①クロマツは樹高が高くなるほど根は深くなる―樹高から根の最大深さを推定可能に
愛知県田原市の海岸林で掘り取られたクロマツの根の最大深さは、クロマツ地上部や土壌特性に関して、樹高との間に最も強い関係性があることを明らかにした。この関係性は、国内で掘り取られたクロマツ43個体についても成立することが明らかとなった。すなわち、クロマツでは樹高から根の最大深さを推定可能であることを示した。
②デジタル画像から根系三次元構造を再現―構造再解析が可能に
掘り取り直後に撮影された根系のデジタル画像から根系構造の表面モデルおよびソリッドモデルを作成することで根系三次元構造の再現が可能となった。
これを用いて実験室に大きな根系試料を持ち帰ることなく、デジタルデータ画像を現場で保存することにより、大きく複雑な根系構造の再解析とデータ保存が可能となった。一例として、解析された土壌の深さに伴う根の断面積合計の変化は、砂や礫などの土壌層とよく対応していることがわかり、土壌環境に適応しながら根が成長する様子が明らかになった。
この研究結果の海岸林への応用には、この研究で可能とした掘り取り直後の現場のデジタル画像から大きく複雑な根系構造を再現し再解析する方法を利用して、さらに海岸林の他の樹種などにも検証する必要がある。また、これまで蓄積されていない樹木根系の三次元構造データについて、デジタル画像を取得しデータ保存が可能なこと、また、それらが再解析可能という観点からも、この方法はこれまで未知な樹木根系の新たな理解への応用について、意義深いことが示された。