農研機構は、農業知識を学習させた生成AIを開発し、10月21日より三重県で試験運用を開始した。この取組は、農業分野に特化した生成AIとして初となる。また、この生成AIは、インターネット上の公開情報だけでなく、全国の農業機関に呼び掛けてデータ収集した生産現場の栽培技術や農研機構が強みとする専門的な栽培知識を用いて追加学習を行った点が特徴だ。今後、全国各地に生成AIを展開し、現場からのフィードバックを得て継続的に精度を向上させることで新規就農者の早期育成、既存農業者への新技術提供を通して農業者の知識習得を支援し、農業の持続的な発展に貢献していくとしている。
今年6月に食料・農業・農村基本法が25年ぶりに改正され、不安定化する世界情勢の中で食料の安定供給に向け、スマート農業を強力に促進していくことが求められている。
一方、わが国の基幹的農業従事者の平均年齢は68.7歳(2023年)と高齢であり、農業者数は今後20年間で30万人まで減少するという予測も立てられている。このため、新規就農者の早期育成に向けた知識習得と既存農業者への最新農業技術の提供が急務となっている。
現在、様々な分野で生成AIの活用が検討されているが、汎用的な生成AIでは専門的な知識に関する質問では誤回答が多くみられる。そのため、研究グループは、広く公開されているインターネット上の農業情報に留まらず、農研機構に蓄積された研究データを始め、地方公共団体の公設試験研究機関(公設試)やJA等が持つ栽培マニュアルや栽培暦、営農指導記録等、一般には手に入らない専門的な情報を用いて、「同じ作目であっても品種ごとに異なる特性」や「日本国内でも地域ごとの土壌や気象条件に応じた栽培方法の違い」、「農業者による消費者への細やかな配慮」など、日本特有の栽培知識について精緻なデータを大量に学習させた。その結果、農業の専門的な知識に関する質問に対して、今回開発した生成AIが、汎用的な生成AIに比べて正答率が40%高いことが示された。農業分野に特化した生成AIの開発事例としてはわが国初となる。
また、10月21日から三重県でイチゴを対象とした本生成AIの試験運用が開始された。生成AIをチャットツールと組み合わせて三重県の普及指導員に提供する。農研機構は、他作目向け生成AIも開発し、普及指導員のオフィス等での調査時間を3割削減し、農業者への高度な普及指導への対応を可能とすることを目指すとしている。
担い手育成など農業の持続的 発展への貢献に期待
生成AIの社会実装にあたっては、データの量と質が非常に重要となる。農研機構では、今後も全国の各産地と協力し、農業データのさらなる収集を進め、農業用生成AIの開発を進めていく方針だ。
また、機構内に構築した生成AIのAPIを農業データ連携基盤WAGRIを介して提供していくとしている。WAGRIは、農業に関する様々なデータを提供しているクラウドサービス。利用会員にはチャットアプリを提供している企業もおり、それら企業が今回の生成AIのAPIを自社のアプリに組み込むことで、今後は農業者等に対して生成AIを活用したサービスを提供していくとしている。
さらに、農業の現場で実際に普及指導員や農業者に使ってもらい、生成AIによって提供された回答の正誤や使い勝手などの情報を収集し、今後も継続的に生成AIの精度を高めていく考えだ。新規就農者を含む農業者や普及指導員が生成AIを活用した知識を得られるようにすることで、普及指導員を通じてより高度な技術指導を受けられる環境を整備し、担い手育成など農業の持続的発展に貢献していくとしている。
同時に、農業ICT企業の新サービス開発、新ビジネス創出につながり、サービス事業体等によるスマート農業の普及が加速することも期待される。
農研機構では今後、農業分野に留まらず、食品分野においても生成AIを活用した食のデジタルデザインを進めていく予定だ。