東京電力ホールディングス株式会社と理化学研究所は、ダム下流域の安全性を確保しながら水力発電用ダムの運用高度化を目指す共同研究に関する契約を締結した。
理研が保有する次世代型気象モデル(※1)やアンサンブルデータ同化手法(※2)、今後確立する河川モデルによる予測技術を用い、東京電力HDがこれまで蓄積してきた雨量や河川流量などの観測データとダム操作記録などのあらゆるデータの解析を行う。
今後、2年後の2019年12月末までの予定で、長野市周辺の信濃川水系犀川の生坂(いくさか)・平(たいら)・水内(みのち)・笹平(ささだいら)・小田切(おだぎり)の5つの水力発電所で研究を行う。これにより、東京電力HDでは、ダム下流域の安全性を確保しながら年間最大1500万キロワット程度の発電電力量の増加を図り、水力発電所の生産性向上につながるスマート・オペレーションの実現とCO2排出量削減への貢献を目指す。
理研は、研究成果を社会に普及させるため大学や企業との連携による共同研究を積極的に進めており、今回の共同研究も取り組みのひとつ。東京電力HDは、163カ所に最大出力986万キロワットに相当する水力発電所を保有している。
ビッグデータ分析技術を活用
これまでダムの放流時間や放流量については、過去の降雨実績などの気象予報データやダム操作経験をもとに判断していたが、最新のビッグデータ分析技術などを活用して雨量や河川流量の予測精度を向上させることで、水力発電電力量を増加させるなどダムの運用高度化を検討してきた。
今回の共同研究を機に、東京電力HDは、再生可能エネルギーの導入拡大・技術開発や効率的な設備形成に向けた取り組みを推進するとともに、水力発電用ダムの最適操作にAIを活用するなどの検討を一層進めていく。
※1:次世代型気象モデル(SCALE)は、数キロメートル~数千キロメートルの範囲の気象を、従来よりも高解像度でシミュレーションが可能。理研のデータ同化研究チームらの研究グループは、100メートル四方の分解能で10~30秒で半径30~60キロメートルの範囲の全点をすき間なく観測できるフェーズドアレイ気象レーダの観測データなどを用い、SCALEを使って個々の積乱雲を忠実にシミュレーションすることに成功した。これにより、ゲリラ豪雨を100メートル四方の分解能で30分前に予測する手法を開発した。
※2:アンサンブルデータ同化手法とは、気象等の事象について、シミュレーションを行った結果が誤差をもつことを前提に、少しずつ異なる複数のシミュレーションを同時に実行し、その結果と観測した実測データを比較して情報を得る方法。誤差も考慮した上で客観的にデータ同化を行うため、予測精度の向上が期待できるが、計算量が膨大となる。理研のデータ同化研究チームでは、この計算を効率的に行うために、局所アンサンブル変換カルマンフィルタ(LETKF)というアンサンブルデータ同化手法の研究・開発を進めている。