大阪大学と物質・材料研究機構の研究チームは27日、傷ついた末梢神経に直接巻いて再生と機能の回復を促進するメッシュ素材のシートを開発したと発表した。研究成果は、生体材料科学の国際誌「Acta Biomaterialia」の2017年4月号に掲載された。
これまで、傷ついた末梢神経の治療に対しては、人工神経が開発されている。だが、それらは損傷部を単に橋渡しするだけで、神経の再生速度を促進する効果がないうえ、神経の連続性が完全に断たれている場合のみ効果があるため、使用できる患者数も少なかった。神経の再生には、ビタミンB12が効果的なことがわかっているものの、経口投与ではあまり効果がなく、患部に直接投与できるデバイスもなかった。そのため、患部にビタミンB12を直接作用させて神経の再生を積極的に促進し、患者数が多い有連続性神経損傷(連続性は断たれていないが、損傷している状態)に対して使用可能なデバイスの開発が望まれていた。
■ マウスは術後6週間で回復
今回、研究チームは、損傷した神経を直接つつみ、局所でビタミンB12(メチルコバラミン)を修復まで放出しつづけられる特殊なシートを開発。数百ナノメートルという非常に細い繊維を使って、神経に直接巻きつけられる柔軟な素材を作ることに成功した。素材は生分解性プラスチックでできているため、最終的には体外に排出される仕組み。実際に、このシートを坐骨神経が損傷したマウスに移植したところ、術後6週間で神経の軸索が再生され、運動機能と感覚機能の回復が確認できたという。
今後は、製薬会社などと共同で、中高年を中心に、国内で数十万人の患者がいるといわれる「手根管症候群」などの末梢神経障害の治療で実用化を目指す。