農研機構は、関東地域における大豆有機栽培技術体系を開発し、標準作業手順書を公開した。この手順書では、品種選択や病害虫・雑草防除のポイント等をわかりやすく示している。有機大豆の関東での生産拡大に貢献するとともに、今後この手順書が国内各地域に適した栽培体系に応用されることで他地域での生産拡大にも貢献すると考えられる。また、「みどりの食料システム戦略」に掲げられている有機農業の取組面積目標の達成に貢献すると期待されている。
有機大豆の需要に対する国内での生産量が不足
農林水産省では、2021年にわが国の食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現する「みどりの食料システム戦略」を策定した。その中で、目標として「2050年までにオーガニック市場を拡大しつつ、耕地面積に占める有機農業の取組面積の割合を25%(100万ヘクタール)に拡大することを目指す」と掲げている。
一方、2021年度に日本国内で消費されたと考えられる有機農産物の国内・海外産の割合は、米(有機米)については90.3%が国内産であるのに対し、大豆(有機大豆)については国内産は10.9%であり、大半が海外産となっている。この状況は、有機大豆の需要に対して国内での生産量が不足していることを示しており、有機大豆の国内生産の拡大が強く求められている。
有機栽培における雑草・病害虫 防除等の技術を確立・体系化
日本の農業では、大豆を含めてほぼ全ての農作物の慣行栽培において、生産量を確保するために、化学合成農薬等を使用した雑草や病害虫防除等における適期作業が求められるが、有機栽培では化学合成農薬を使用せずに雑草や病害虫等に対応することが必要となる。
しかし、大豆の有機栽培に重要な個々の技術や、それらの技術を他の栽培技術と組み合わせた栽培体系は確立されておらず、有機栽培の取組が進みにくい状況だった。
このため、農研機構は国内生産の拡大を目的に、大豆の有機栽培における雑草・病害虫防除等の技術を確立するとともに、それらを体系化し、わかりやすい標準作業手順書としてとりまとめた。
品種選定、播種時期、早期中耕培土がポイント
今回公表された標準作業手順書では、ほ場準備から収穫に至る作業体系の概要や、栽培上の主なポイントが解説されている。
【ポイント1:有機栽培には晩生で小粒・多莢の品種が適している】
早生品種は避け、晩播適応性の高い中生品種または晩生品種を利用する。関東地域では、「納豆小粒」や「フクユタカ」、各地の在来品種等が適していると考えられる。
【ポイント2:やや晩播が収量確保のカギ】
試験で使用した「タチナガハ」は、関東地方の慣行栽培では6月上旬~下旬の播種が一般的。一方、有機栽培では、慣行栽培に加えてやや晩播(7月上旬~中旬)が適していると考えられる。播種を遅くすることにより開花期が遅くなり、カメムシ等による吸汁害が軽減され、慣行の7割程度の収量を得ることが可能。「フクユタカ」は「タチナガハ」に比べて晩生で、開花期が遅く有機栽培に適していると考えられるが、早播きすると徒長・倒伏の危険性が増し減収の可能性があるので7月上中旬の播種が適すると考えられる。
【ポイント3:早期中耕培土で雑草を抑える】
慣行栽培では、土壌処理型除草剤の効果が消失する時期(播種後3~4週間後)に1回目の中耕培土を行うのが一般的。一方、除草剤を使用できない有機栽培では、大豆本葉1枚目が展開するころ(大豆播種10~14日後)を目安に中耕培土する「早期中耕培土」を実施することで開花期頃の雑草量を大幅に低減できる。
このほか、手順書では作業省力化や排水対策、各種病害虫対策等の個別技術も紹介されている。
有機農業の取組面積拡大目標の達成への貢献に期待
今回公表された手順書により、大豆有機栽培に取り組む生産者が増え、栽培面積や生産量の増加が期待される。また、大豆のような土地利用型作物における面積拡大は「みどりの食料システム戦略」に掲げられている有機農業の取組面積目標の達成に貢献すると考えられる。
また、手順書は、関東地域を対象としたものだが、国内の他の地域でも有機栽培のポイントは共通すると考えられる。今後、普及に当たっては、各現場でこれらの技術の適応化を図るとともに、生産性の評価と国産有機栽培大豆に対するニーズを踏まえて計画、導入することが重要となる。
さらに、既刊の「高能率水田用除草機を活用した水稲有機栽培体系標準作業手順書」と併せて活用することで、汎用化水田等での水稲・大豆輪作有機栽培体系が可能となり、水田での有機栽培に取り組みやすくなると考えられる。